93. トロル

北欧の妖精。トロールトロルドトラウトゥローとも。

毛むくじゃらの醜い巨人。鼻と耳が大きく粗野で、凶暴というのが、一般的なイメージ。怪力、再生、変身、透明化、予知、富の与奪等の能力を持つ者も。実は、小人型や人間型もいて、親切で友好なトロルもいる。

人間型はフルドレといい、隠れた民とも。地下の国で、赤い帽子を被り、唄を歌って牛を飼っていて、牛の尻尾を生やしている。

人の元へ返された取り替え児が成長した若者を、唆して地下の国へ誘い堕落させると言う...。

元々、ノルド語では、怪物・妖精全般を指す言葉。ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『幻獣辞典』では、戦神トールに敗れたヨトゥンヘイム巨人族の末裔とされる。『旧エッダ』には虹の橋ビフレストをよじ登ろうとしたトロルらの重みで橋が崩れ、世界が滅びたとある。

ラップランドでは、スターッル。人食い。子供を攫い、取り替え子も行う。金銀財宝を蓄え、ビール醸造が得意。太陽光とライ麦パンにより死ぬ。

フィンランドのスターロも同様に邪悪で、池に棲み霜や嵐の折、人を溺れさせる。ただ人間の子供を悪いものから護るとも。

ノルウェーでは、物がなくなると「トロルのいたずら」だと言う。姿は、長く伸びた赤鼻、毛むくじゃら、指が4本で、ボロを纏う。ただ、女のトロルは、美しく、長い赤毛だとする。

デンマークでは、長く白い顎髭の老人の姿。革のエプロンと、赤い帽子からも分かるが、サンタクロースの同族とされる。

アイスランドにも、クリスマスの13人の妖精というトロルがいる。

スウェーデンでは、丘に住む人と呼ばれ、騒音を嫌い、やはり財宝を溜めている。貴金属工芸に長け、薬草にも詳しい。気に入った人間には富を与え、逆の場合には不運や破壊をもたらす。女子供、財宝を盗むとも言われこれを防ぐには、ヤドリギの枝が有効。

フェロー諸島では、うつろな人々と呼ばれ、地下に住み人を攫い、長期間捕らえておく。

シェットランド・オークニー諸島では、トロー。小さく善なる者とされ、音楽を好み、ダンス跡と言われる妖精の輪を作る。トロルの王クナル・トロウ、『墓』の回で触れたセルキーも、水に棲むトロウとされる。

グリーンランド、カナダでも、やはり邪悪な巨人というイメージ。

創作では、トールキンの『指輪物語』、J・K・ローリングの『ハリー・ポッター』、『アンデルセン童話』や、イプセンの詩劇にも描かれる。

トーベ・ヤンソンの『ムーミン』シリーズの主人公もムーミン・トロールだが、作者によると、件のトロルではないとのこと。まぁあの世界のキャラクター達のサイズは電話帳くらいだし、とても凶暴な感じではない...。唯一人間サイズの飛行鬼は、原作では「トロルの人」という意味で、風貌は恐ろしいが...。

描いたのは、有名な『三びきのやぎがらがらどん』。元はノルウェーの昔話で、1957年マーシャ・ブラウンが絵本として出版。1965年瀬田貞二訳で日本でも。筆者がトロルを初めて見たのも、この絵本だったと思う。『となりのトトロ』の中にも登場。メイちゃんは、このトロルトトロだと言っている。宮﨑駿によると、トトロは、かつて人間と戦って敗れた一族の生き残りという設定らしい。まるで、『ゲゲゲの鬼太郎』の幽霊族じゃあないか! 更に、この絵本のトロルは、スティーブン・キングの『IT』のペニーワイズのモチーフでもあるらしい! それはともかく、絵本の最後は、大きな山羊のがらがらどんが、トロルをバラバラにしてしまう。子供心にちょっと、可哀想な気がした...。山奥に古くからある愚鈍なモノが、たまたまやってきた力あるもモノに駆逐されてしまう...なんてのは、深読みしすぎだろうか...。

春泥に眠れやつらに手を出すな風来松