332. 白山

先日、行きつけの居酒屋〈ホヤケン〉で、石川白山の日本酒〈菊姫〉を飲んだ。以前、福井を旅した時に見た、雄大な山容を思い出した。

白山は、富士山・立山と並び、〈日本三霊山〉とされる。古くは『万葉集』にも詠まれ、中世には修験の山として〈白山信仰〉が盛んとなった。717年、泰澄が御前峰で瞑想中に、緑碧池より現れた九頭龍王が、自らを白山明神妙理大菩薩と名乗り顕現。また、泰澄が山頂に至った際に導いた白山比咩神(しらやまひめのかみ)が、菊姫=菊理媛(くくりひめ)。彼女については、菊しか食べない不思議な美女菊仙人が、病を治す菊を残したが、知覚坊の悪行で枯れ果てたという話が残る。白山は今でも地元では「しらやまさん」と呼ばれ、親しまれている。

他にも白山には、多くの言い伝えがある。泰澄が封じた、村々を荒らした三千匹のおろちが封じられているとされるのが千蛇ヶ池と蛇塚。また、泰澄の弟子・一厳も悪竜を改心させたと言い、一厳洞・龍尾原・竜頭山の地名が残る。白山の西の神社の放蕩息子は、美女の魔物に取り殺されたが、その魔物白山の神により半分にされ、今もその姿が見られるという。戦国時代この地を治めた佐々成政は、間違いで殺された側仕えの女・小百合に「白山に黒百合が咲いたら家は滅びるであろう」と予言され、後に熊本で黒百合の絡む陰謀により死罪となった…!

さて菊理媛に話を戻すと、彼女の名は『日本書紀』の異伝にのみ一度だけ登場する。それがあの、伊弉冉尊伊弉諾尊黄泉平坂で揉めた段で、二人の間に立ち何かを言って場を収めたとある。この事から縁結び(もしくは縁切り)の神、また巫女の神とも言われる。「くくり」は「括り」の意。また菊花の古名も「久久(くく)」。ただ、なぜ菊理媛白山比咩神が結びつけられたのかは、彼女が囁いた言葉と同じく謎である。

以下は蛇足だが、なぜ菊が日本の国花となり、天皇家の象徴となったかも、いまひとつはっきりしない。元々、中国から伝わった菊が、日本の歴史に初めて名前が載るのが平安時代。その後、刀マニアの後鳥羽上皇が、自作の刀に〈菊一文字〉を入れた事が始まりともいわれる。〈菊一文字〉は、〈備前福岡一文字派〉の祖則宗の作。新選組・沖田総司の愛刀としても知られる。

菊理媛ささやき白山目覚めをり風来松