前回の、寅吉も、源左衛門も、天狗には女はいなかったと語っている。
が、江戸時代の『黄表紙』には、女天狗が多く描かれている。『源平盛衰記』にも、尼法師も驕慢となると天狗になるとある。その姿は、剃髪・法衣とも、長髪で化粧もして薄衣を身に着けた美女とも。東京小河内村大畑淵には夫婦天狗がいて、その娘は美しかったと伝わる。また、山梨南大巨摩では、川天狗の事を女天狗と呼ぶ。
女天狗の始まりは、素戔嗚尊の息より生じた女神天逆毎(アマノザコ)と『先代旧事本紀』にはある。長い牙と耳、高い鼻を持ち、意に沿わない他の神々を千里の彼方に投げ飛ばし、向けられた武器も牙で噛み砕いた。その子、天魔雄(アマノサク)も人々を惑わせる、九天の王となった。
さて、ここに地獄に落ちて女天狗になったと、平田篤胤が言っている有名人がいる。その人こそ今(2024年)大河ドラマで話題の紫式部である!『今鏡』にも、女天狗になったという記述こそないが、多くの人々を惑わせた罪で地獄に落ちたとある。彼女の書いた『源氏物語』は当初、貴族社会で広く読まれたが、『更級日記』にも『こればかり読んでいると、夢で僧に諭された』とあるように、この時代、色恋の戯言は仏教的には〈狂言奇語の罪〉と考えられた。しかし地獄に落ちた彼女を救おうと、〈源氏供養〉という儀式が行われ、能でも演じられた。また、実際、式部を地獄から救ったとされるのが、小野篁。この男、一説には、東広島入野で竹から生まれたとも(よもや、かぐや姫同様月人?)。遣唐使絡みで嵯峨天皇の怒りを買い、隠岐に流罪となったりして、〈野狂〉とも言われたが、後に赦されて参議に。そんな篁と地獄との縁は、11歳の頃。篁は旱魃を止める為、禁足地であった神泉苑に入り、竜神に地獄へ引きずり込まれる。しかし、閻魔大王に助けられ、そのまま補佐役となり、藤原高藤も蘇生させた。実は、紫式部とは百年ほど時代がズレているのだが、式部ファンにより墓までも篁の隣に移動させられてしまったらしい!『源氏物語』は、後に江戸時代でもブームになったり、かと思えば〈天保の改革〉で発禁となったり、近代になっても皇室がらみで政府から禁じられたり…と、何かとお騒がせ。原本は無く、鎌倉時代の藤原定家による写本のみ現存する。巻名のみで本文が見当たらない『雲隠』は、元より無いとも、密かにあるとも、光源氏の死で出家する人が続出したため焚書となったとも、いろいろ言われている。
絵に描いたのは、2013年岩本ナオ作『町でうわさの天狗の子』。ほんわかしつつも、ヘンな迫力のあるマンガだった。岩本ナオは、この作品も含め、2年連続で『このマンガがすごい!』のオンナ部門1位を受賞した。
天狗にも女ありけり紫式部風来松