73. 石

先日、やっと劉慈欣の『三体』シリーズを完読した。近年の中国SFには、舌を巻かざるを得ない...! さて、物語の終盤で人類の歴史を記録保存するという話が出てくるのだが、なんとその方法が「石に彫る」だったのには驚いた! 今から何世紀も先の未来でさえ...!『ONEPIECE』の〈ポーネグリフ〉も思い出された。

現在、最古の石碑とされるのが、ノルウェーで見つかった、1〜250年頃の物とされる〈ルーン文字〉の碑文だ。〈ルーン文字〉とは、ゴート語で「秘密」を意味し、オーディーンが作ったともいう。日本最古となると、飛鳥時代の物とされる〈上野三碑〉の中の、〈山上碑〉となる。また、最古の石器はケニアのビクトリア湖岸で発見された〈オルドワン石器〉。260万〜3000万年前のもので、カバの解体に使われたと考えられている。

古くから世界各地に、〈巨石信仰〉も存在した。イギリスの〈ストーンサークル〉、オーストラリアの〈エアーズロック〉。日本でも古神道で、神の依代となる石は〈磐座〉と呼ばれた。石像も、地蔵道祖神田の神石敢當...等があり、海外でもイースター島の〈モアイ〉や、エジプトの〈スフィンクス〉等が思い浮かぶ。

『日本書紀』には天岩戸伝説。『続日本紀』には、唸り声を上げ祟ったいう東大寺の巨石。『延喜式』には石神(しゃくじん・シしゃもじ・そうず...)道祖神竈神山神...等になったとある。

各地に〈石神神社〉も多い。海神の娘玉依姫命が祀られる三重県鳥羽市では、元々、海女の信仰を集めていた為か、「女性の願いなら一つだけ叶えてくれる」という。他にも人食いの女妖怪を退けたというのが、愛媛県吉田町犬尾山。青森では、眼病に効くという。熊本県天草市、熊本県牛深、沖縄県にも。御神体は、石だったり、石棒(穀物を潰したり、搗いたりする)だったり、石剣だったり...。そういえば、現代でもパワーストーンは人気だ。

さて、妖怪では、江戸時代の『中陵漫録』に、石妖が載る。静岡県の石切場に現れ、美女の姿で石工たちを按摩で次々と眠らせた。猟師に撃たれ粉々になって消えたが、その後も何事もなかったかのように現れたという。大正時代の『小谷口碑集』にも、長野県北安曇蟹原に、やはり美女の姿をした石の精が現れたとある。

石といえば、見たものを石に変えるギリシャ神話のメデューサもいる。彼女も元々は美しい髪の美少女だったが、ポセイドンと関係を持った事でアテーナーの怒りを買い、蛇の髪を持った怪物姿に変えられてしまった。果ては、アテーナーの力を借りたペルセウスに首を切られ、アイギスの盾にされてしまう...なんだかかわいそう...。

日本各地には、妖しい謂れのある石が多数ある。静岡県小夜の中山峠には身重で殺された女の、長野県飯田市には水害で亡くなった子の泣き声がする夜泣き石がある。岡山県には泉村箱に「味噌をくれ」と杓子を突き出す杓子石が。円城村にはこそこそ石が。香川県琴南のオマンノ石、長野県北安曇郡小谷村の物石は、命が狙われているのを教えた。群馬県安中のチャンコロリン石は、中山道を転がりながら鳴った。山形県上山の生居の化け石に食べ物を与えた者は、宝の石を手に入れた。徳島県おじょつぱ石は、道行く人に「おじょつぱ(背負ってくれ)」と言う。

海外でも、ニューギニアの霊力の宿る石ウェロポ、中央オーストラリア北部では、砂地から現れる大小の青石が祖先だとする。ハワイイのワイキキビーチにある、魔法石カパエマフ
は、タヒチから来たヒーラーマナを込めたもの。

バタバタは、屋上や庭から畳を叩くような音をさせる。畳叩きとも。夜中、北風の吹く日、火災、戦災の後等に聞こえるという。また、東から西へ音が進むとも。1758年広島市で大火災が起こった後にバタバタが出たという。これが宿る石をバタバタ石と呼び、石の中に逃げるのを見た者もいる。石の精とも。菅茶山、頼山陽もこれの事を書き記している。高知県、和歌山県、山口県岩国市にも同様の話がつたわる。広島市鷹野橋商店街には、バタバタの石像がある。筆者も広島に住んでいた頃、良く通った映画館がここの近くにあったので、何度も見ている。それが絵に描いたもの。平成4年には、水木サンを招き〈妖怪バタバタ街角フォーラム〉が開催されている!

夕立やお地蔵さんもわたしもずぶぬれ山頭火