189. 元興寺(がごぜ)

日本最古、始まりの妖怪

時は飛鳥時代。場所は尾張阿育知・片輪里。ある日、農夫の前に落雷が落ち、子供の姿と化した。鍬で殺そうとしたところ、もし助けてくれれば雷神の如き子を授けるという。農夫は受け入れ、雷の子は楠の舟で天に還って行った。さて、やがて男が授かった子は、頭に蛇が巻きついた異形。十歳の頃には、力自慢の皇族の王にも打ち勝つ程の怪力となった。早まらないでほしいのだが、これが妖怪ではない。仮にここでは雷童子としておこう。その後、彼は奈良・元興寺の童子となる。ある時、鐘つき童子が次々と行方不明になる事件が起こる。雷童子が夜に見張っていたところ、僧の姿をしたが現れた! 童子はこれの髪を掴んで引き摺り回す。すっかり頭髪を剥がされたは逃げ出した。血の跡を辿ると、かつてこの寺で働いていた下男の墓に行き当たったのだった...。これが、日本で最も古い妖怪元興寺(がごぜ)である。やがて、雷童子は、道場法師と名乗り、その後も鬼隠れ山のを投げ飛ばしたりもしたという。記されているのは、『日本霊異記』。その姿は鳥山石燕の『図画百鬼夜行』にも描かれた。

道場法師を神格化した八雷神(やおいかづちのかみ)は、面が作られ、お札や絵馬にも描かれている。

一方、がごぜは、妖怪を現す古語・幼児語となり、地方によって、「ががも」・「がこし」・「がんご」等と呼ばれた。泣き止まない子に「ガゴシが来るぞ!」と顔真似をし、これが「アッカンベー」の元になったとも言われる。元興寺には今もがごぜの頭髪が残る。

冬の雷初めのガゴゼ貫けり風来松