ここ松山市のお隣、伊予市の佐礼谷に〈ヤギとコーヒー〉という名前のコーヒー屋さんがある。その名の通り、ティピカというヤギがいる。コーヒーも深煎りで美味しく、ヤギもかわいい。昔エチオピアで、コーヒーの赤い実を食べたヤギが踊りださんばかりに興奮した事が、コーヒーの起源という。
ヤギは人間の感情を読み取れるという話があるので、以外と飼いやすいのかもしれない。
ヤギと言えば、童謡にもある、紙を食べるというイメージ。実際、かつてコウゾ・ミツマタで出来ていた和紙は食べていたが、現在の紙は与えてはいけません。ヤギさんがお腹を壊します。
そんなヤギが日本にやって来たのは、幕末にあのペリー提督と! 黒船にミルク用に乗せていた。昔から、英国海軍では上官用のフレッシュなミルクをとるためにヤギを乗せており、ラウンジの事を「goat locker」という。イギリスだけでなく、粗食に耐えられるヤギは、ミルク用・食用に遠洋に出る船乗りに重宝されてきた。実際、ヤギのミルクは甘くて栄養もあるらしい。沖縄のヤギ汁共々、一度は飲んでみたいものだ。
さて、西洋では、『新約聖書』において、前項の羊は善きものの象徴。対して山羊は悪しきものとして扱われている。〈タロットカード〉や、19世紀フランスの魔術士エリファス・レヴィの絵で知られる悪魔・バフォメットは、黒山羊の頭、乳房、カラスの翼という姿。右腕の「slove(溶解)」と左腕の「coagula(凝固)」は、錬金術の言葉。魔女の宴サバトを行う。上級悪魔のサタナキアや、『黙示録』の666の獣と、同一視される。1300年頃、フランスのフィリップ4世は、バフォメットを崇拝している疑いをかけ、〈テンプル騎士団〉を消滅させた。「escape goat」の由来である、贖罪の日に、人々に罪を負わせ放たれるのも山羊。また、その山羊の行先には半人半羊の精霊アザゼルもいる。古代ユダヤ教、『ヘブライ聖書レビ記』。
これらは、キリスト教の布教において、邪神とされた。バフォメットは元々はアルカディア等の古い神。アザゼルは、イスラム教で悪魔イブリースとなる。大元は、『ギリシア神話』の神パーンだ。古代ローマ時代、山羊は欲望と性的快楽の象徴とされた。羊飼いの神であり、山羊の角と足を持つパーンも、放埒で好色。ニンフを追いかけ回したり、想いを受け入れなかったエコを殺してしまったり...。(エコは女神ガイアにより声だけの存在となり、「エコー」の語源となった。)「パニック」も昼寝してるパーンを起こすと混乱と恐怖をもたらす事が由来。パーンはナイル川での宴会中、怪物テュポンから逃れる為、下半身が魚となり、その姿で〈山羊座〉となった。パーンとは、「pan=全て」であり、サンスクリット語では「凡」。
『北欧神話』では、雷神トールのチャリオットをひく、タングリスニとタングニョーストが片足の不自由な2頭の黒山羊。冬至に家々を訪れ、この山羊の肉をプレゼントしてまわる。(いくらでも再生するので大丈夫!)サンタクロースの起源の一つとされる。
中国では、『山海經』に、赤髭のそうろう、九尾九耳で背中に耳のあるばくち、口が無く何も食べないかん等がいるが、もう山羊とは言えないか...。
日本では山羊の多い沖縄に、片足(カタパグ)ピンサや、ピーシャーヤナムンという山羊の幽霊がいる。
絵に描いたのは、C・S・ルイス『ナルニア国物語』の一場面。古い洋服ダンスからナルニア国に来たばかりのルーシィ・ペペンシーが若きパーンのタムナスと、街灯の下で出会うという名シーン!
冬燈イヴの娘と若きパン風来松