398. クロアチア

2006年の夏休みにクロアチアを旅した。一番の目的地は、世界遺産の町ドゥブロヴニク。筆者お気に入りの〈ジブリ〉作品『紅の豚』のモデルと言われる(『魔女の宅急便』も)。いやはや、さすが〈アドリア海の真珠〉! 毒舌作家バーナード・ショーに「ドゥブロヴニクを見ずして天国を語るなかれ」と言わしめただけはあった!

さて、この国で最も有名な妖精ヴィーラ。スラブのニンフといった存在。ヴィレビト山脈の雲の上に城を築き、森や野・水辺・雲等に棲む。姿は美しい銀色の髪をした若い女。白いドレスをまとい、天の羽衣のようなヴェールで空を舞う。嵐等の自然現象を自在に操り、癒やしの力も持つ。白鳥・狼・馬・隼等に変身もできる。牡鹿に乗り、蛇の鞭を振りまわし狩りをする勇ましい面も。力の源は髪で、一本でも失うと死ぬか、永久に獣(鳥とも)の姿となる。魔法の道具や、馬を人に授けたり、嵐を予言したり、若者の結婚を手助けしたりする一方で、作物を破壊したり、矢で男を惑わせたり、取り替え子をしたりもする。夜、パイプやドラムのような音をたてて雲の上を歩き回るのだが、この時彼女たちに呼びかけられた者は、硬直して程なく死んでしまうという! サクランボの木の下で輪舞を踊るのだが、これを邪魔した者にも容赦ないとも、踊ることで強く美しい男を求めるとも言う(見初められた男を死ぬまで踊らせるという話も!)。ヴィレニツァは、幼少時にヴィーラに攫われ育てられ、特別な力を授かった女性を言う。1660年の魔女裁判では、ヴィレニツァ魔女を告発した。J・K・ローリングの 『ハリー・ポッター』や、ジャコモ・プッチーニのオペラ『妖精ヴィッリ』にも登場する。

魔女といえば、首都ザグレブの〈マンドゥツェヴァッツの噴水〉には、魔女が集まると言われる。ここは、英雄イェラチッチ総督に少女が水をあげた場所としても有名で、クロアチア語で「水を掬う」という単語が、ザグレブの名前の由来となったという説もある。更に、中部オグリンのクレク山にも、世界中から魔女が集うと伝わる。この国では魔女狩り・魔女裁判も17世紀後半に多く行われた。『魔女の宅急便』のモデルと言われるのも、これらの事と関係があるのかもしれない。

前述のクレク山には、の伝説もある。また、首都ザグレブの地下にもがおり、地震を起こすと言われる。メジムリェ郡チャコヴェツ市にもポゾイなるが地下に棲んでおり、これを退治出来るのは黒魔術の徒グラバンツィヤシュのみと伝わる。

他には、クリスマスに聖ニコラウスに同行する、悪魔のような姿のクランプスが有名。悪い子は籠に入れて連れ去り、地獄の穴に投げ込むぞ…!

さて、見た目は陽光溢れる美しい海と空の観光地クロアチアだが、筆者の訪れるたった10年前に内戦の末、独立を果たした。美しいドゥブロヴニクの町もよく見るとそこらに戦闘の跡が見られたし、町のすぐ裏にそびえるスルジ山には、まだ多くの地雷が埋まったままだと聞いた…。そんな歴史の上にある現在のクロアチアという国の、町や人の美しさ・強さを句に詠んでみた。

行く夏やアドリア海の光陰風来松