ホワイト一家は、インド帰りのモリス曹長から、猿の手を譲り受ける。それには行者のまじないがかけられており、「3つの願いを叶えるが、運命を変えようとする者には災厄をもたらす」という。早速、夫妻はローン返済のための200ポンドが欲しいと願う。猿の手の一本が折れ曲がり、願いは叶った! しかし、それは息子が事故死した、その弔慰金だった…! 妻は、息子を蘇らせて欲しいと、2つ目の願いをした。が、夫は最悪の結末を予想し、3つ目の願いとして、妻の願いの取り消しを願ったのだった…。
これは、1902年イギリスのW・W・ジェイコブスの書いた短編小説『3つの願い』である。実際、欧米にはモデルとなる話は見つからなかった。が、日本には存在した!
それが、陰陽道の猿手だ。これは、飼い慣らした子猿の手を、柱に釘で打ち付け切り落とす事で作られる。猿手は、一代のみだが栄達をもたらすという。
東北地方では、厩に猿の手や頭蓋骨がぶら下げられる。厩神・厩猿と呼ばれ、猿が馬を守るとする。これは、陰陽五行説の馬は火、猿は水という考えや、猿が天馬と人の仲を取り持つ、天竺から飛んできた猿が厩を祓うといった伝承から来ている。孫悟空も、天界では厩番だった。また、かつて猿に厩の周りを舞わせて安全を祈ったのが、〈猿回し〉の元となった。ただ、この風習、前に書いた〈村田銃〉の普及により猿が乱獲され、その頭蓋骨等の入手が、逆に困難になり廃れたとも言われる。最も有名な厩猿は、〈日光東照宮〉の〈三猿〉。他にも神奈川の〈寒川神社〉や、茨城〈勝馬神社〉にも、馬を曵く猿の像がある。
厩に限らず、秋田では猿は大漁の守護神とされていたり、岐阜飛騨高山では安産・子の安全の御守りのさるぼぼが有名だったりする。
これら猿への信仰は、山王信仰や庚申信仰として、古くから全国各地に見られる。前者は、滋賀大津の〈日吉大社〉を本尊とし、猿を神使とする。太陽神=日吉は、幼名が日吉丸だった豊臣秀吉も信仰し、保護した。後者も同様に猿を神使とし、本尊である青面金剛と共に、〈庚申塔〉に猿が描かれている。これが〈神道〉に行くと、また猿田彦となる…。
さて、絵に描いたのは1995年テリー・ギリアム監督の『12モンキーズ』。筆者の好きな作品だ。しかし、『猿の惑星』といい、『西遊記』といい、人は似て非なるこの動物が、どうしても気になるらしい…。
寒猿の手切る指折る馬守る風来松