280. 髪

髪鬼。女の怨みが他人の髪に宿り、どんどん伸び続け、の角のように逆立つ。切っても切っても、伸び続ける。『百器徒然袋』に載る。毛娼妓(けじょうろう)は、遊郭に現れる長い髪ぼうぼうの遊女。『黄表紙』では、男の妖怪達に人気。毛羽毛現は、全身毛むくじゃらで、稀にしか見られない。疫神ともされる。『今昔百鬼拾遺』に載るが、この解説にあるのが、中国の毛女。『投轄録』には、髪銭を焼く煙の中に現れた、全身毛だらけの女とある。また、『列仙伝』には、秦の始皇帝の宮女だったが、秦の滅亡後山中に逃れ松葉を食べて生き延び、百七十年して空を飛べるようになった仙人として載る。暗闇で髪を切る髪切りは江戸時代に多く現れた。本人の気づかぬ内に、元結からバッサリ切られるという怪異狐狸髪切り虫の仕業とも言われる。5・6世紀の中国や、20世紀のロンドンでも発生。人や獣が幽霊と結婚しようとした際に現れると、水木サンは書いている。背後から髪を引き決断をためらわせる後髪もいる。

徳島三好加茂村の〈彌都比売神社〉の御神体麻桶の毛は、機嫌を損ねると桶から髪を伸ばし襲ってくるという。京嵯峨嵐山の〈御髪神社〉には、髪結いの始祖とされる、藤原采女亮政之が祀られている。

仏教の達も、独特のヘアスタイル。如来の〈螺髪〉。菩薩の〈垂髪〉、不動明王の〈巻髪〉...等が知られる。

西洋では、やはり『ギリシャ神話』のゴルゴン三姉妹の三女メデューサ。美しい髪をアテネと競い、蛇の髪を持つ怪物に変えられしまう。見る者を石にする力を持つがペルセウスに討たれる。ポセイドンの愛人でもあり、ペガサス巨人リューサーオールを産んだ。

古来より髪には不思議な力が宿るとされてきた。日本でも「髪」は「神」に通じるとされた。すもうの力士が髷を結うのも、この為。〈キリスト教正教会〉の〈修道士〉は、基本髪は切らない。一方で、〈仏教僧〉は、煩悩の象徴として〈剃髪〉する。

髪といえば、〈丁髷〉! 月代を剃るという形は、室町時代後期からのもので、兜を被った時の蒸れ防止から生まれた。古くは、冠や烏帽子を被る際、頭上で髪を束ねた。この烏帽子、平安時代では、成人の証され、庶民も被った。寝る時も取らなかったようで、烏帽子を取った姿を見られることは、裸と同じくらいの恥と感じていたらしい...。大元は、やはり中国。日本では、明治四年に〈断髪令〉が出されたが、正岡子規は明治八年の〈勝山学校〉(筆者の母校である現〈番町小学校〉)の入学時まで、髷を結っていた。彼の祖父、大原観山が大の西洋嫌いで、子規と従兄弟の三並良と二人だけが、松山城下での髷姿だったのだが、さすがに嫌がって祖父に訴えての断髪だったという。

これから少し後、17世紀のフランスでは、カツラが流行した。ルイ13世が薄毛だった為に使用した事をきっかけに、貴族社会に広まった。音楽室でよく見る音楽家たちの肖像画もコレ。白髪なのは、当時の流行り...。ベートーヴェンが被ってないのは、貴族の為でなく、庶民の為に音楽を作っているというポリシーから! 実はカツラの歴史は古く、古代エジプト人は、地毛は切ってカツラを付けていたと言う!

他にも、気になる髪型にアフロヘアがある。サイババ、子門真人、笑福亭鶴瓶、トータルテンボス...具志堅用高のは、アフロというより、パンチパーマっぽい(一時期のカープ選手達のような...)。あと、ドレッドヘア! アフロと共に、アフリカ回帰的な意味合いでアメリカの黒人たちの間で流行った。しかし、実はドレッドの歴史は古く、最古は紀元前1600年のクレタ島。スパルタや、ケルト人、ゲルマン人、アステカ、ヴァイキング、アメリカンインディアン...と、世界中で大人気!〈ヒンドゥー教〉では、神聖視され、シヴァ神はドレッドの中に、女神ガンガーを封じ込めた!

描いたのは、『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する山岸由花子。髪の毛を自由に伸ばしたり、動かしたりする事のできる能力。名前は〈ラブデラックス〉! イギリスのバンド〈シャーデー〉が由来で、そのジャケットには長い黒髪の女が描かれている。

黒南風を孕みて髪の罷り出ず風来松