前頁の蛙同様、豚も醜さの象徴とされがちな存在だ。『千と千尋の神隠し』で、両親が豚となるシーンは、恐ろしかった...。
猪の家畜化は、8000年以上前にユーラシア大陸東西地域で、すでに行われていたという。古代オリエントや古代エジプトでも、食用とされていた。一方で、イスラエル、ユダヤ教、イスラム教では豚食はタブーとされた。日本でも、家畜化された猪が弥生時代の遺跡から発見されていて、『日本書紀』『古事記』『万葉集』にも載る。が、時代が進むと獣食い自体が廃れていった。他方、沖縄では古来より、食用のための飼育が行われ、1385年にはアグーが伝わり、戦後にもスパムが広まった。あの西郷隆盛も、沖縄の豚が好物だった。同時代、新選組の西本願寺の屯所でも、松本良順の勧めで、子豚が飼われていた!
朝鮮では、「豚」は「お金」と同じく「トン」と発音される事から、豚型貯金箱が人気。元々、豚の貯金箱は14世紀イギリスで、素材の赤土粘土「pygg」と「pig」の間違いからと言われるが、実はそれ以前の13世紀のドイツ、12世紀のジャワ島での存在が確認されている。豚が多産な事からの縁起担ぎだろう。日本では1961年〈三菱銀行〉のノベルティで初お目見え。因みに、韓国や中国、ベトナム等アジアの多くの国で、干支の猪年は豚年である。
ドイツやイタリアでは、幸運の印。
北欧やフランスでは、クリスマスには豚がプレゼントを結びつけて山から降りてくると言われたり、豚がサンタクロースの化身だとも!
ウェールズの神話には、穀物と蜜蜂をもたらす豊穣の雌豚ヘンウェンがいる。アーサー王に退治される怪猫キャスパリーグの母。ハワイイの神話には、火山の女神ペレと夫婦喧嘩を繰り返している、豚の神カマプアアがいる。
日本では、前述したように古くから豚を家畜としてきた南西諸島に妖怪が多い。徳之島のユナウア(夜の豚)は、その名の通り夕方ウロチョロと小走りに人にまとわりつき、これに股をくぐられると死んでしまうという! 他にも、小さな豚の群ワングワグワも見ただけで死ぬ! と、意外に恐ろしい...。同じ道を巡らせ続けるカタキラウワ(片耳豚)、沖縄の豚のマジムンであるグワグワーマジムンには影が無いという。
しかし、なんと言っても豚の妖怪といえば、『西遊記』の猪八戒だろう。中国四大奇書の一つ『西遊記』は、宋代に原型が出来、明代に大成したとされる。当所は朱八戒だったが、明の太祖である朱元璋と被るため猪八戒となった。八戒は元々人間だったが、ある真人と出会った事をきっかけに修行を始め、やがて天界から迎えられ、天の川を管理する天蓬元帥の官位を賜る。しかし、蟠桃会で嫦娥に酔ってちょっかいをかけ、鎚打ち二千回の上、地上に落とされる。その時、誤って豚の胎内に転生してしまい、あの姿となった...。その後、人食い妖怪として暴れたり、福陵山の女妖怪の卯二姐と結婚するも死に別れたりした末、観音菩薩より猪五能の名を貰い八戒を守りつつ、天竺を目指す玄奘三蔵を待ち、孫悟空との戦いを経て猪八戒となる。天竺からの帰還後は、未来世で浄壇使者という、お供えの残りにありつけるという地位を約束された。武器の釘鈀は太上老君作で、3トンもあり火炎旋風を巻き起こす。中国では孫悟空よりも人気で、タンキーにもよく下ろされる。台湾でも猪哥神として祀られる。
子供の頃に楽しみに見ていたTVドラマ『西遊記』は1978年の作品で特撮は〈円谷プロ〉! 製作費10億! ナレーションは『兼高かおる世界の旅』の、芥川隆行。三蔵法師役の夏目雅子が男か女か分からず、子供心に混乱した...。マチャアキ、一徳、西田の3人は、どうにか夏目と2人きりになろうとあれこれ画策していたらしい。一度3人で飲み屋で知り合った女の子の家に行ったところ、彼氏が帰ってきてしまい、風呂場に西田だけ置いてかれたという、リアル『西遊記』ぽいエピソードも!『西遊記2』から、馬の役でおひょいさんもメンバーに。この玉龍という馬、実は四界龍王の一人の太子! つい先日、猪八戒役の西田敏行の訃報が! 稀に見る、味のある喜劇役者だった...。あの世で夏目三蔵や岸部悟浄との再会を果たした事だろう...。
ちょっとだけちょっかいかけて春の宵風来松