253. ズエン

最近、トリニダード・トバゴ出身の友人が出来た。早速、彼の地の妖怪を調べてみたのだが、ほとんど手ががりがない...。そこで、直接尋ねてみたところ教えてくれたのが、このズエンである。

子どもの姿で、灰色か青みがかった肌の色。裸だが、大きな麦藁帽子を被っている。目はなく小さな口だけ。日本や世界の妖怪に多い、足が後ろ向きに付いている(踵が前向きにある)。森や山、小川に棲み、子どもを森に誘って迷わせる。その際ズエンは子どもの親の声を真似るので、この国の人達はそのような場所では子の名前を呼ばないようにしている。満月の夜には、うっとりするような鳴き声を出すことも。その声でハンターから動物を守ることもある。何故か、蟹に異常な愛情を持つ。

その正体は、洗礼を受けずに死んだ子どもの霊と言われる。トリニダード・トバゴには、これと似た妖怪が多い。子供を攫うバルバドスのハートマン、やはり大きな帽子を被り森の奥へ男を誘うラ・ディアブレス等がいる。それらの起源は、アフリカやラテン・アメリカ、ヨーロッパの取り替え子にあるともされる。というのも、歴史上この国は、アフリカ・中国・インド・イギリス・スペイン...と、多種多様な人種と文化が入り混じって形成された。ズエンを教えてくれた友人も、スコットランド、中国、インド等、幾つもの国の血統を持つ。

さて、このズエン、ピパロやペナルといった農村部において、今も実際に子供たちが出会ったという話があるらしい。これも、妖怪あるあるなのだが、ズエンの話をしていると現れるとか...。ならば、もしかすると、この近くにも...!?

描いたのはのは、トリニダード在住のスコットランド人画家ピーター・ドイグ風。

黙されし子の名待ちをり春の闇風来松