235. 伊豫稲荷神社

これまでに九尾の狐については、2度取り上げたのだが、さすが大妖怪、三度姿を現した! 2023年、行きつけのコーヒー屋〈SIROCAFE〉で、タウン誌の初詣特集の記事を何気なく見ていた所、『伊豫稲荷神社の久美社には、九尾の狐の尾が祀られている』との記事を発見!? 前年、筆者が参加している登山グループ〈輝山会〉で、〈伊豫稲荷神社〉には参っていた。愛媛県の名の由来となった愛媛売命が誕生したという池が山頂にある〈谷上山〉の麓の神社だ。そういえば、やたら狐の置物が供えられている立派なお稲荷さんだとは思ったが、「久美」は「九尾」であったか...!

明治元年。九州から来た浪人風の男が、伊予市郡中上町の宿〈門茂〉に宿泊。病の為、長逗留となり、立ち去る際に礼として、細長い桐の箱を置いていく。「日本に二つとない有り難い珍しい品」だと語ったという。中にあったのは、支那緞子に包まれたミイラ化した狐の尾で、根元は九つに分かれていた! 一時、大儲けを企んだ五人の男に大金で買い取られたが程なく持て余し、明治十一年、灘町の宮内小三郎ら五十人の氏子が引き取り、〈伊豫稲荷神社〉へ納められた。その後も狐が住職の夢枕に立つこと等があり、明治三十七年、稲荷の眷属である命婦狐と共に祀られ、今に至る(命婦狐は御所の消火に助力した功により官位を授かった白狐)。

九尾の狐の尾は、鍋島藩の家臣の蔵番より密かに持ち出されたという...。鍋島藩といえば、歌舞伎にもなった化猫騒動で知られるが、九尾の狐については聞いたことがない。調べて唯一見つかったのは、あの幕末の名君・九代藩主鍋島閑叟直政について書かれた朱子学者・古賀穀堂の日記。直政の寵愛を受けた通い女・お光の事が、「綾川」「九尾の狐」の名で登場している。彼女の為に、藩全体を巻き込んでの大騒動になったあたり、いかにも九尾の狐らしい...。ただ、これが比喩として書かれた事なのかどうかまでは分からなかった...。

〈伊豫稲荷神社〉は平安時代に建立され、〈伏見稲荷〉の最古の分社で、正一位。主神は宇迦之霊大神。神紋は三つ火焔玉。境内には年に一度石を産むという、安産に効く亀石や、子のように泣くが、夜泣きに効くという夜泣き石もある。件の九尾の狐の尾は宝物館にあり、数年に一度公開されている。2023 年は、前述の殺生石の事件に始まり、プロ野球〈日本ハムファイターズ〉の、きつねダンスが流行る等、狐年かのような1年だった。年の瀬のTV画面にも、絵に描いた大道真澄(『映像研に手を出すな』)の、どんぎつねが可愛らしい姿を見せている。

追記

2023年5月。〈伊豫稲荷神社〉の1200年祭にあわせ、神社に納められた宝物等の文化財の大々的な調査が行われた。8月に報告会があり、伊予市で私設図書館〈ビブリオAA〉をされている岡田有利子さんに声をかけて頂き、参加させてもらった。同市の有名人、いせきこたろうさんの境内の石造物の調査結果等、非常に興味深い内容だった。ただ、件の九尾の狐の尾については、特に新しい情報は無く、少し肩透かしを食わされた感があった...。

更に2024年。前述の岡田さんが主催されている読書会で、〈伊豫稲荷神社〉や扶桑木等を中心に、この『百句百妖漫録』の講演をさせてもらったのだが、その会場〈ミュゼ灘屋〉こそ、なんと九尾の狐の尾を買い取った、灘の宮内小三郎の邸宅であった...!(彼は灘の町の創立者だったのだ...。)同年、あの雑誌『ムー』の6月号に〈伊豫稲荷神社〉と九尾の狐の尾について書いてあると知り、バックナンバーを購入したが、これにも特段、新しい発見は無かった...。もし、これを読んでいただいている方の中で、〈伊豫稲荷神社〉と九尾の狐について何かご存知の方がいれば、ご一報下さい。

九尾狐も久美くみさんとなり初詣風来松