かつて、2万年前には日本にも象がいた。ナウマンゾウである。正倉院にある、その臼歯は竜骨とされていた。呼称は「きさ」といい、象牙の断面の木目文から。古将棋には、「酔象」なる駒があった。
その後、日本に象がやって来た初めての記録は1408年若狭国小浜に、足利義持への献上品として来たもの。これは、朝鮮の太宗に贈られた。次は1575年豊後臼杵には大友宗麟に。その後、豊臣秀吉や、徳川家康にも献上された。1728年徳川吉宗が注文した象は、長崎から江戸まで歩かされた!
『鳥獣人物戯画』にもその姿は描かれ、歌舞伎にも『象引』なる演目がある。蘇我入鹿が連れてきた象を、藤原鎌足の家来が引き合うという話。
ご存知の通り、インドや東南アジアでは象は神聖視されている。
『インド神話』では、象が世界を支えている。ヒンドゥー教の象の頭のガネーシャは豊穣・叡智の神。父親のシヴァ神が誤って首をはね、象のそれにすげ替えた...。ネパールのプルシキはガネーシャと同一視され、3つ目の象頭の神。天帝インドラの乗る白象アイラーヴァタは4本の牙に7つの鼻を持ち、雲を作るという。
普賢菩薩も象に乗り、釈迦は白象の姿で母胎にいたという! 沙門地獄には火象が。スリランカには、魔王マーラの乗る巨大な黒象ギリメカラがいる。
中世ヨーロッパでは、象はドラゴンの宿敵とされ、かの大プリニウスも、ドラゴンは夏に、象の冷たい血液を狙うと書いている。
ケニアのUMAにはアエロファンテなる翼の生えた象がいて、1941年に写真にも撮られている!?
さて、絵に描いたのは、タイの小型の水性の象チャンナム。ミャンマーではイエティンインドではジャレバと呼ばれる。大きさは非常に小さく、5cmとも、1インチ(2.54cm)以下とも。魚のような尾を持ち、牙には毒がある。群れを作り水路などに棲み、そこを横切った人間が毒の為、死んでしまうこともある。陸上では生きられず、捕らえて七日で死亡した例もある。チャンナムの存在は危険から身を守ってくれると言い伝えられ、ミイラが高値で売買されている。2003年にはミイラのX線調査が行われ、その骨格は普通の象と同様だったと発表された。2007年にはマジ・ティネ軍曹が国外に持ち出し、500バーツ(10000ユーロ)で売られたという。
最後に...筆者の敬愛する故ライアル・ワトソンの遺作となったのが、『エレファントム』だった。象一つとっても、人間が知っている世界なんて、本当にほんのちょっとに過ぎないのだろうと思った。
蓮ひらく生まれし象の牙に毒風来松