句に詠んだのは、ご存知、史上最高とも言われるヴァイオリンの名器〈ストラディヴァリウス〉である。17世紀イタリアのアントニオ・ストラディヴァリにより製作され、現在も約520挺が存在する。その中でも、1716年に製作された〈メシア〉は最高のものとされ、アントニオは死ぬまで手放さなかった。現在、オックスフォードの〈アシュモレアン博物館〉に展示されているが、製作当時の状態を残す唯一のストラヴィヴァリウスと言われる。著名なヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムら数名にしか演奏されたことはなく、この100年程はその音を聴いた者はいない。イギリス王室のプリンセスからの要望も断っている。下世話な話だが、その価格はこの20年程で鰻上りで、通常の物で20億円。〈メシア〉となると60億円とも言われる…!最初のオーナー、ジュゼッペ・タルティーニは、夢の中で悪魔に授けられたという『悪魔のトリル』を発表した。
史上最高のヴァイオリニストと言われる18世紀イタリアのニコロ・パガニーニ(どうでもいいが、筆者と同じ誕生日!)は、あまりの演奏の素晴らしさに、悪魔に魂を売った代償だと噂された。コンサートでも、彼の背後に悪魔を見たという多数の証言が...。実際、彼の母親はニコロが5歳の頃、息子と悪魔が演奏で競っている夢を見たという。そこには、天使も現れ「あなたの息子は素晴らしいバイオリニストになる」と告げた。彼の風貌は、目つきが鋭く、肌は浅黒く、痩せていて(病気がちだった)、黒い衣装ばかり着ていたので、悪魔めいていたという。ただ、ナポレオンの妹のエリザと浮名を流したり、賭博でヴァイオリンを取り上げられたりと、人間臭いところもあった。亡くなった際、悪魔のイメージの為、どこの教会にも埋葬を断られ、やっと安らかに眠ったのは死後36年の事だった...。
絵に描いたのは、呪われたヴァイオリンとして知られるチェリーニのヴァイオリン。16世紀、ヴァイオリンの発明者の一人と言われるガスパロ・ダ・サロが、イッポーリト・アルドブランディーニ枢機卿(後のローマ教会クレメンス8世)の依頼で製作。装飾をベンヴェヌート・チェッリーニが手掛け、頭部には魔女セイレーン、テールピースには青銅の人魚が彫られている。枢機卿は、恋心を抱いていた美貌と楽才を持つ少女にこれを贈った。が、彼女は、ヴァイオリンに生気を吸い取られるかのように亡くなった...。その20年後、少女の命日にこのヴァイオリンで演奏した者も、高熱で倒れた。教皇の死後は博物館に寄贈されたが、1646年にも演奏した者が自殺。1809年、フランス軍の略奪にあった後、ウィーンのゲオルク・レスリー伯爵が所有するも、彼も精神異常をきたし死亡。名バイオリニストと言われたフランツ・クレメントも犠牲になった。その後、彼の弟子ベルリンダ・マルギッターと共に一時姿を消すが、ワルシャワとウィーンの商人の手を介し宮廷顧問ウルリヒ・エンツマイヤーの手に。彼は呪いを解くべく、呪いのヴァイオリンを、19世紀ノルウェーを代表する奏者で、作曲家でもあるオーレ・ブルに託す。牧師でもあった彼の演奏が呪いの最後となった。チェリーニのヴァイオリンは、オーレ・ブルの死後、誰にも弾かせないという条件で、現在もノルウェーの〈ベルゲン博物館〉に展示されている。
数ある楽器の中でも、特にヴァイオリンに関するこの手の話は際立っている。あの音色には、何か悪魔的なものが潜んでいるのかもしれない...。
越えられぬストラヴィヴァリウス揚雲雀風来松