79. 家鳴り

今の家に住んで約2年になるのだが、改めて数えてみると、人生で引っ越しを12回もしていた! 実家を出てからは、アパートかマンション暮らしだったが、直近の2軒は一軒家を借りた。そうなってみて初めて気がついたのだが、家は「ミシリ」とか「ガタリ」とか鳴る...。

家鳴り。家や家具が理由もなく鳴る現象。絵に描いたのは、鳥山石燕『図画百鬼夜行』。小鬼のようなものが、家を揺すっている。

江戸時代の『太平百物語』には、但馬国の化け物屋敷で、肝試しをした者が家鳴りに遭った話が載る。僧侶・智仙が畳の下に小刀を突き刺して止まったのだが、そこには『刀熊青眼霊位』なる墓標があり、刀を突き刺し『眼』の箇所から血が流れていた。かつて熊を殺し、自らも熊に憑かれて死んだ男の霊であった。

美作でも781年に兵器庫でこれがあり、約半年続いたと、『続日本記』にある。

明治34年には東京本所の死者を続けて出した長屋で、丑三つになると家鳴りが起こったと、『二六新報』に載った。

また、日本各地に、上下逆さまに立てた〈逆柱〉がこれを起こすと伝わる。

小泉八雲は家鳴りについての文章の中で、『狂歌百物語』の『床の間に活けし立ち木も倒れけり〈やなり〉に山の動く掛物』を紹介している。

これとよく似たものに、釜鳴りがある。釜が鳴るのは凶兆とされ、女の腰巻きや、麻裃の肩衣を、被せると止むとも。岡山県〈吉備津神社〉の〈釜鳴り神事〉が知られる。かつて、吉備津彦命に討たれた温羅が、託宣を下すとなり釜を鳴らすという。

更に、釜鳴りが元ネタと思われる、鳴釜なる妖怪が、鳥山石燕『百器徒然袋』におり、釜を被った毛むくじゃらの姿。説明は『白沢図』にある中国の釜を鳴らす妖怪斂女(れんじょ)が引かれている。

ただ、この釜鳴り家鳴りに併せて解説されている事が多いが、似て非なるものだろう。さらに、騒霊=ポルターガイストも、ラップ音も。これらについてはまた別の機会に。

さて、家鳴りに話を戻そう。その正体は、木材や金属が湿度等により、伸縮もしくは劣化する音だとされている。建材の馴染んでいない新築でよく起こるとも。水道管内の圧力波で起こる〈ウォーターハンマー〉や、遠くで起こった地震や噴火の衝撃波〈空震〉というのもある。

まぁしかし、そんな野暮な話は置いといて、今夜も家が鳴るなら、あぁ、どこかで小鬼どもが悪戯をやらかしとるのぅ...と思いつつ眠るとしよう...。

埋み火や家鳴りしづみてまた鳴れりくらげを