123. 山姫

山に棲む女の妖怪山女ニイヨメジョとも呼ばれる。若く美しく、長い髪の女の姿。樹皮や草木で出来た服を纏っているとも、十二単衣を着ているとも。男の血を吸い、死に至らしめる。

九州各地に言い伝えが多く残る。屋久島ではニイヨメジョと呼ばれる。旧正月と9月16日に現れると言われ、御岳に登った18人が山小屋で血を吸われ全滅したという話もある。鹿児島にも多く、肝属郡牛根村では昭和初期まで目撃例が。鹿屋市北町には1965年に現れた。熊本県下益城山犬落のそれは、大声で笑いかけてくるという。人里の男を婿にしたり、大蜘蛛に化けたりもする。菊池郡虎口村では、頭に角のある一丈もある姿で、人を食って生きていると自ら話した。砥用近くの鉾尾では、山姫にお産のため小屋を貸した老女の財布に、常に金が入るようになった話がある。宮崎県真幸町では洗い髪で、綺麗な声で歌う。東臼杵では、命を助けた猿に、山姫が苦手なナメクジを貰い、命拾いした話が残る。九州以外では、高知県。ここの山姫には、会っただけで高熱を出して死んでしまうという。また、東北にも、言い伝えが多い。『遠野物語』にも、幾つか話が載る。

山姫への対処法としては、笑い返さない、もしくは先に笑いかける、草鞋の鼻緒を切って唾を吐きかけて投げつける、前述のナメクジを利用する...等が言われる。

外国でも、『ギリシャ神話』のニュンペー=ニンフのうち、オレイアスは山と狩猟の女神。大元を辿れば、クレタ島のミーノーア文明の同様の女神ブリトマルティスだ。「山」が女性名詞という例も多い。

さて、山姫とは一体何者なのか? まず、考えられるのが、前述の『遠野物語』の『寒戸の婆』等がそうだと思われるが、何らかの理由で山に入った女、もしくは山の者に攫われた女。ここで書くには頁が足りなさすぎる〈山窩〉や〈山男=大人〉との関連もあるだろう。もう一つは、クレタの女神のように、山の神的なもの。おそらく、この二つが混ざり合って誕生したと考えられる。

日本の山の神といえば、大山津見(オオヤマツミ)。これは男神だが、その2人の娘木花咲耶姫磐長姫の二人が、日本の山の女神のルーツと思われる。前者は富士山、後者は八ヶ岳の女神とされる。また、美女と醜女というよく言われる山の神の形に当てはまる。他にも白山の菊理媛(ククリヒメ)もいる。

一方で、出産や生理の血の穢れを理由に、女人禁制の山はつい最近まで少なくなかった。富士山でさえ、1872年に漸く解禁。大峰山や高野山といった修験道の山も同様。ここ愛媛県の石鎚山は今だに7月1日は女人禁制の日とされる。

〈マタギ〉の敬う山の女神も禁忌に厳しく嫉妬深い。彼らは入山の暫く前から女と床に入るのを避け、妻を持つものは下山まで化粧をさせない。女を思わせるY字の木に女神が宿るとされ、彼女が自分より醜いオコゼを好む為、その干物を持ち歩く。12と7がタブーとされ、この日や、この人数での入山を避ける。7は、かつて女の姿をした魔物に騙された7人組が別の〈マタギ〉らと撃ち合いとなった言い伝えによる。

山姫にシラ切る若きマタギかな風来松