246. 地震

2025年1月、日本の〈地震調査委員会〉は、南海トラフ巨大地震が30年以内に起こる確率が80%と発表。筆者の住まいもかなり古い上、本棚に囲まれて寝ているのでビクビクしている。

火山国であると同時に、地震国である日本。前回、伊奘冉火山神であると書いたが、夫の伊弉諾や、その子素戔嗚地震神とも言われる。もしくは、大国主命が。

ただ、やはり地震といえば大鯰が真っ先に思い浮かぶ。広まったのは、1885年〈安政の大地震〉で、この時300〜400点もの鯰絵が出回った。その中の一つが、歌舞伎で有名な『暫』の浮世絵『雨にハこまり□野じゆくしばらくのそとね』。五代目市川海老蔵演じる主人公鎌倉権五郎景政が、鯰坊主こと鹿島入道震斎を要石で押さえつけている場面が描かれている。このおかしな題名は、震災で家屋が倒壊し野宿を強いられるという意味で、「『暫』のつらね(名文句を連ねて述べる)」と掛けている。

ただ、以前から地震と大鯰の記述はあり、1592年の豊臣秀吉の書状に、「伏見の城を鯰の地震にも耐えられるよう丈夫につくるように...」とある。そもそも、更に前の1586年〈天正地震〉の際、「琵琶湖の鯰のせい」との秀吉の発言が、大鯰の起源という説もある。ずっと時代を遡り767年。三重〈大村神社〉に、地震鎮めの神とされる武御雷神=鹿島神経津主命=香取神が訪れて、地下の大鯰を鎮める要石を奉納したとも伝わるが、さすがに大鯰は後付けだろう。

日本最古の地震の記録は『日本書紀』にある599年の〈推古地震〉。この折、朝廷は全国に命じてなゐ(地震)の神を祀らせた。三重の〈名居神社〉や、前述の〈大村神社〉がこれにあたり、見事に中央構造線上に位置する!

ただ、この頃は地震を起こすのは、大鯰ではなく、地中にいる地震虫もしくは竜蛇の仕業と考えられていた。江戸初期の絵にも、日本全土を竜蛇が取り巻き、その頭を武御雷神、尾を経津主神要石で押さえつけているところが描かれている。この度々登場する要石。千葉〈香取神宮〉・宮城〈鹿島神宮〉等に実在する。大地の最深部金輪際まで達しているとされ、かつて水戸黄門こと徳川光圀が掘り出そうと、七日七晩かけたが無理だったという。琵琶湖に浮かぶ竹生島(日本三大弁天の一で、様々な伝説が残る)も、金輪際からつながる柱のひとつとされ、大鯰に取り巻かれ守られているという! 江戸時代「ゆるげどもよもや抜けじの要石鹿島の神の在らん限りは」で締めくくられる呪い歌を3回唱える、もしくは貼り付ければ、地震の被害を免れるとされ流行した。

実は『アイヌ神話』にも、英雄アイヌラックルが、動くと国土が壊れてしまいそうな大鯰を退治した伝説があり、これが元なのではという説もある。

さて、大鯰はさておき、世界を見てみると、大蛇もしくはが地震を引き起こすという話が多い。特にアジア圏では世界蛇とされる。蛇の他にも魚類、アイヌではアイマス、沖縄では大鰻。他にも、古代エジプトでは、大地神ゲブの笑い、ギリシャでは巨神タルタロス、北欧ではロキ、フィンランドでは大地を支える死の国の老人の震え、北米ホピ族は角のある大蛇パロロコン、古代メキシコではケツァルコアトル、モンゴルでは地下の英雄神ゲシル・ボグドーの寝返り、インドは竜王ナーガラージャのあくび、韓国では地下の巨人...等様々に言われる。

絵に描いたのは、2022年新海誠監督のアニメ映画『すずめの戸締まり』。ここではミミズと呼ばれるものが地震を起こしていた。これを観ていて思い出したのが、2017年村上春樹の短編『カエルくん、東京を救う』。ここでも、地震を起こすのがみみずくんだった...そうか、新海誠はハルキストだった! ところで、『すずめの戸締まり』に登場した地震を封じている閉じ師と似た存在が、熊本の民俗宗教にもある。その名も〈トヂ〉。女性は〈トズ〉と言い、地鎮を行う。そういえば、阿蘇には、健磐龍命がカルデラの外に溜まった水を流そうとした時に引っかかった大鯰の伝説がある。ただ、これは説得に応じて退いてくれた為、神として祀られている。筆者もかつて熊本に5年ほど住んでいて、離れた後にあの大地震が発生した。願わくは、大鯰トヂ達の力で二度とあのような惨事がおきませんように。

地震なゐの道辿りて飛ぶや寒雀風来松