300. パイロキネシス

第3部の最後は、期せずして「現代ホラーの帝王」スティーヴン・キングの登場となった。

パイロキネシス。火を発生させることの出来る超能力の一つ。ギリシャ語の「pur=火」と「kinesis=動き」から。この言葉を最初に用いたのが、キングの1980年の小説『ファイアースターター』(1984年『炎の少女チャーリー』として映画化。主演は『E.T.』直後のドリュー・バリモア。2022年にもリメイク)。『X-MEN』にもパイロをはじめ、火を操るミュータントが何人かいる。

ただ、この現象自体は、古くから世界中で発生していた。1878年マサチューセッツ州ブリジットウォーターで、アン・キドナー(12)が横切るだけで、農場の干し草が燃えるという事件が起こった。彼女は逮捕されるも、証拠が見つからず釈放。1886年カリフォルニア州ターロックのウィリー・ブローは、見つめるだけで発火させるという理由で、登校禁止となった。1891年カナダ・トロント、1965年ブラジル・サンパウロでも同様の事例が。1982年イタリアでも、1カ月で5回の出火を起こしたベビーシッターが有罪判決を受けた。

以上は、無意識と思われる事例だが、1882年ミシガン州のA・W・アンダーウッド(24)は、息を吹きかけたり、手を擦るだけで、火をつけたという。『ニューヨーク・サン』紙や、チャールズ・フォートの著書『ワイルド・タレンツ』でも紹介されている。1927年テネシー州メンフィスの自動車整備士チャールズ・ドーズも同様。1973年イタリア・フォルミア村のベネデッド・スピーノは、トレーニングによりコントロール出来るようになったという。2021年フィリピン・イロイロ村のエマ(3)は、なんと「火」という言葉を発するだけで、火をつけた! 日本でも、福来友吉に見出され、月の裏側の念写で有名な三田光一が、見るだけでマッチを燃やしている。

パイロキネシスの説明としては、体に帯電された静電気が強力な電磁波として放出され発火するのではとも言われる。日本の消防庁によると、静電気のスパークによる火災は、年間100件程度発生している…。そして、賢明な読者諸君は、既にお気づきだと思うが、パイロキネシスを起こす大半は、ティーンエイジャーの少年・少女である。この点は、前述のチャールズ・フォートも指摘。ポルターガイストにも共通している。

さて、これと似て非なるものが、人体自然発火現象=SHCである。その名の通り、人体が一部を残して骨まで燃えて炭化(こうなるには1000℃程度が必要)。周囲には火の気はなく、人体以外は燃えていない。過去300年の間に200件が確認されている。古くは、14世紀イタリアの騎士ポロヌス・ボルスティウスの体がワインを飲んだあと燃え上がった。1731年にも同国バンディ伯爵夫人(ローマ教皇の母)が、膝から下を残し灰になっているところが発見された。彼女のいた部屋のベッドにも家具にも焦げ跡さえなかったという。1853年には、チャールズ・ディケンズが『荒涼館』に書いた。ハーマン・メルヴィルや、エミール・ゾラの小説にも登場。近代に入ってからも、1951フロリダ州のメアリー・アーサーが、最近でも1988年イギリス・サウサンプトンのアルフレッド・アシュトンが、やはり足だけを残して焼死。

上記の場合は、既に灰となった姿が発見されるという事例だが、1938年にはイギリス・エセックス州の舞踏会場で多くの人の目前で、フィリス・ニューカムが燃え上がった。同じくイギリスで、1967年にはロバート・フランス・ベイリーが腹部から青い炎を発したのを、1982年にはジーン・ルシールの口から炎が出るところが目撃された。

人体自然発火現象の原因としては、アルコールの大量摂取が言われていたが、摂取していない例も多く否定された。他には、肥満・腸内ガス、雷雨時に稀に発生する球電なとが挙げられている。最も有力なのは、人体がロウソク化する芯燃焼。1998年には〈BBC〉がブタを使った実験で証明した。

さて、最後に『ツイン・ピークス』のあの言葉で締めくくりたい。『FIRE WALK WITH ME(火よ我と共に歩め)』。デビット・リンチ監督2025年1月15日永眠。素敵な悪夢をありがとう!

火の用心「火付盗賊改方である」風来松