93. ろくろ首

日本の代表的な妖怪。首が伸びる、もしくは抜けて飛び回る。ほとんどが女。名前の由来は、陶芸のろくろ、井戸の滑車のろくろ等から。

まずは、首の抜ける方抜け首から。あまり馴染みがないが、小泉八雲も書いていて、夜中に首だけとなり人を襲って血を吸ったりする。本体を動かすと戻れなくなる。首には梵字が書かれていたり、赤い筋がある。『曽呂利物語』には抜けている間、本人に自覚はないとあり、『蕉斎筆記』には下総国に多い病とある。

『和漢三才図会』には、耳を翼のようにして首だけで飛ぶ飛頭蛮が載る。また、ジャワ島にも虫落落民と呼ばれる首の抜ける人がおり、目に瞳がないという。ヒマラヤの洞窟にもいて、頭には赤い筋が有る。『捜神記』には本人は首が飛んでいる間の事は夢現で分からないと書かれており、これが日本に伝わりろくろ首となったと思われる。

似たものに、ボルネオ島のポンティ・アナ、マレーシアのペナンガラン、南米のチョンチョン、ペルーのウミタ等がいる。

さて、では伸びる方はどうかといえば、実はこれ抜け首の絵からきた誤解らしい。元々、抜けた首と胴体の間は霊的な糸で繋がっていて、鳥山石燕の『図画百鬼夜行』などで描かれたが、首が伸びていると勘違いされたよう...。それでも『甲子夜話』や十辺舎一九の小説には、実際首の伸びたろくろ首も書かれている。『閑田耕筆』には、吉原の芸者の首が伸びた話があり、遊女の間で首を伸ばして行灯の油を舐める奇病が流行ったという。これは、酷使され腺病質となった遊女だと思われる。

また、抜けにしても、伸びにしても、幽体離脱という説もある。

さて、1810年、江戸上野の見世物小屋には、実際に首の長い、大和の国の生まれの五十余歳の男が出ていたという。そういえば、前にも書いたが、地元の通称〈椿神社〉の縁日には、昔は毎年、見世物小屋が来ていた。あまりはっきりした記憶はないが、その中にろくろ首もあったような気がする。実物よりも看板のおどろおどろしい絵を覚えている...。

大宰忌や人眺めつつ人を待つ内田美紗