かぐや姫の出した難題の一つとして知られる、「火鼠の皮衣」の火鼠である。右大臣阿倍御主人が唐の商人から手に入れた偽物は、火に焚べるとあっという間に燃えてしまった。ここから、やり遂げられない事を「あえなく」と言うようになったとも。
さて、この火鼠(ひねずみ)の元は、もちろん中国で、火鼠(かそ)と呼ぶ。またの名を火光獣。晋の地理書『神異経』には、長さ四十里の南の火山の、燃え尽きない木不尽木の火の中に棲むという(崑崙山とも)。百斤二尺で、毛は細く白い。水を注げば、死んでしまう。その毛から、汚れても焼くと綺麗になるという火浣布が作られる(これは〈石綿=アスベスト〉と考えられている)。隋の煬帝の時に、史国(ウズベキスタン)から火鼠を持ち帰ったとの記述がある。また、明の『本草綱目』には、西域と南海の火州に棲むと書かれている。
他にも、『山海經』には、火炎の多い令丘山に棲む顒(ギョウ)(グ)がいる。四つ目の人面梟で、旱魃の兆しとされる。
西洋のサラマンダーは、燃える炎の中のや、溶岩に棲むオオトカゲかドラゴンタイプの姿。パラスケスは4大精霊の一とした。毒を持つとともに、その肉は媚薬にもなるという。現実世界では、サンショウウオに関連付けられる。その抜け殻は燃えないとされ、これが前述の火鼠の皮衣の元とも言われる。
シチリアのエドナ山の下にゼウスにより押し込められたのがテュフォン。噴火は、これの仕業だという。オリンポスの神々が、ティタン・ギガンテス等を征服した際、怒ったガイアが最後に生んだ。天まで届く巨体、百の蛇の頭、火を放つ目、下半身はとぐろを巻く毒蛇。エキドナとの間に、キマイラ・ヒュドラ・ケルベロス・スフィンクスを生んだ。
チリ〜アルゼンチンに住むマプチェ族の神話にもチェルフェがいる。炎と岩で出来た巨人もしくはオオトカゲの姿。怒って噴火を起こすため、生贄が捧げられる。
さて、最後に創作の世界だが、『指輪物語』のバルログを紹介したい。映画『ロード・オブ・ザ・リング』の2作目の冒頭、モリアの坑道でのガンダルフとの戦いは、その部分だけで大満足の映画史に残る名シーンだと思う。体内に業火を宿す翼を持つ巨人のような姿。片手には炎の鞭。実は、ガンダルフやサウロンと同じ、マイアなる種族(半神か精霊ぽい)だったが、堕天し冥王モルゴスに下ったという。そう知ると、モデルはやはりルシファーなのだろう。
描いたのは、かぐや姫が帰った満月の翌晩に、富士山(帝が姫から貰った不死の薬を山頂で燃やした)に出現した火鼠。浮世絵にもある1707年・宝永四年の富士の噴火と合わせてみたが、描いててなんだかちょっと怖くなった...。
十六夜や一日遅れの火鼠現る風来松