筆者には、恐怖の原体験といえる記憶が3つある。1つは、夕方やってたアニメ『ガンバの冒険』の敵役、白イタチのノロイ。2つ目は、映画『八つ墓村』がかかっていた〈タイガー劇場〉にあった老婆の顔の巨大な看板。逆さになって、目が電気で青く光っていた。3つ目が、(これが一番古いと思うのだが)NHKの人形劇『新八犬伝』の玉梓の怨霊。人形は最近亡くなった辻村寿三郎作。何年か前に、広島県三次市の〈辻村寿三郎人形館〉で本物を見た時は感慨深かった。
西洋の『アーサー王物語』、アラブの『千夜一夜物語』、中国の『水滸伝』…それらに並ぶ日本の代表作とえば『南総里見八犬伝』だろう。江戸後期、曲亭馬琴により二十八年(終盤は盲目になりつつも娘お路が口述筆記)を費して書かれた、九十八巻百六冊の日本文学史上最大の長編小説である。
坪内逍遥が『小説神髄』において、その文学性を批判したが、庶民の人気は高く、歌舞伎でも演じられた。坪内自体、その後に現れる若き小説家や詩人から批判される側にまわる。
因みに曲亭馬琴は、原稿料のみで生計を立てられた、日本初の著述家とされる。
時は1411年〈結城合戦〉で、城主の里美義実は逆臣山下定包の妾、傾国の美女玉梓の首を跳ねる。彼女は「児孫まで畜生道に導きて煩悩の犬となさん」との呪詛を吐き果てた。時は移り、1457年義実は安西景連との戦で、飼犬の八房に「敵の首を取って参れば、娘の伏姫を与える」と戯れた。そうしたところ、八房は言葉通り影連の首を咥えて戻った! 義実は約束を反故にしようとしたが、伏姫自身がその不可を説き富山に入ってしまう。実はこの八房こそ、あの玉梓の怨霊が憑いた霊犬だった! その念は姫の読経により解消されるも、彼女の胎内には八房の気により、子種が宿っていた。伏姫はそれを恥じ腹を裂き死んでしまうのだが、傷口から八つに分かれた数珠が飛び散った! これが、「八犬士」であり、その証は牡丹の痣。やがて、因縁に導かれ集結した彼らは、里見に馳せ参じ、お家の危機を救うのだった! の後、八犬士は、里見の姫をそれぞれ娶り、重臣となり、その後仙人となる。話の中には、富山の化け狸・妙椿、化け猫、八百比丘尼…と次々登場し、奇々怪々の大絵巻が繰り広げられる!
その昔、薬師丸ひろ子と、真田広之が主演した角川映画『里見八犬伝』を観た。(山田風太郎の小説を元にした映画『八犬伝』が現在上映中!)何年か前に、新聞小説で連載されたのを読んでいたが、確か転勤による引っ越しで中途になってしまった…。いつか続きを読んでみよう。
玉梓と聞き幼な子の目を隠す風来松