194. エルフ

自然と豊かさを司る妖精もしくは小神族。若々しく美しい容姿。尖った大きな耳。森や泉に棲み、魔法を使う。長寿または不死。これが、現代のエルフ像だろう。

最古の記述は、『北欧神話』。古ノルド語でアールヴと呼ばれた。『新エッダ』には、光の種族リョースアールヴは太陽の煌めきよりも美しく、空にあるアルフヘイムに棲む。一方、闇の種族デックアールヴは瀝青よりも黒く、地上や地下に棲む。アールヴアース神族とも言われ、またデックアールヴドワーフとも。

人との交わりで生まれたハーフエルフもおり、『フロル・フクラキのサガ』には、デンマーク王との間に生まれた娘スクルドが。『シドレクス・サガ』にも人間の女王とエルフアドリアン王との子ホグニが登場する。

『スノッリのエッダ』には、エルフは天地神ユミルの屍の蛆と書かれている。

スカンジナビアでは、丘や岩場に棲み、花の中に入る程小さく、昆虫の様な羽根を持つ美しい姿。ただ、背中から見ると木の虚のように見え、人間の男を死ぬまで踊らせたりする!

円形に並んだキノコはエルフの輪と呼ばれ霧深い夜か朝にエルフが踊った跡だという。これを見ていると長い歳月が経ってしまう。また、ここで小便をすると、性病にかかるとも。これとよく似たバックソーンの誓いという言い伝えもあり、クロウメモドキ科の植物バックソーンを円形に巻いて満月の夜に踊ると、エルフが現れる。その時、エルフが逃げ出す前に「止まれ、願いを叶えよ」と唱えられれば、一つだけ願いが叶うと言う!

イギリスでは、病や傷の原因をエルフの一撃と言い、エルフが遠くから小さな鉄の矢を射るのだとする。また、「elflock」=「髪のもつれ」で、これも彼らの悪戯とされる。

『バラッド』にも、ダークエルフの詩がある。

イングランドでも、小さな悪戯者とされるが、このあたりになるとフェアリーとの混同が見られ、『真夏の夜の夢』のオベロンも、「エルフフェアリーの王」とされる。

ドイツでは、人や家畜を病にさせ、悪夢を見させると言われ、あまりいい印象ではない。ドイツ語の「aip=悪夢」の語源は「elf」。ドイツに限らず、中世ヨーロッパではエルフ悪霊と見なされた。キリスト教化によるもので、『ベーオウルフ』でも、エルフ悪霊の同盟について書かれている。エルフの耳が尖って描かれるのも、このあたりの時代の悪魔のイメージからだろう。

現代の欧米で、サンタクロースを手伝う緑色の服を着た小人もエルフと呼ばれる。これは、明らかに北欧のトムテニッセである。

また、アイスランドでは2021年「妖精保護法」が成立。エルフの家エルフの岩が保護されている。

さて、エルフと言えば、J・R・R・トールキンの『指輪物語』を避けては通れない。先に述べた現代のエルフのイメージは、ここから来ていると言って間違いない。トールキンは、言語学者も驚くほどのエルフ語まで完成させてしまった! 映画『ロード・オブ・ザ・リング』で、それを聴くことも出来る。

それと、今ひとつエルフの容姿に影響を大きく与えてしまった作品がある。日本に! それが1986年に誕生した〈TRPG=テーブルトークロールプレイングゲーム〉の『ロードス島戦記』である。当初、〈TRPG〉の元祖である『D&D=Dungeons&Dragons』上でプレイされていた(さらに元を辿れば『D&D』の大元は『指輪物語』)。後に小説やアニメ化もされる。この中にエルフのヒロインディードリッドが登場する。イラストを描いた『ガンダム』や『パトレイバー』のメカニックデザインでも知られる出渕裕が、彼女の耳を長く尖らせた張本人だ! このイメージが拡散され、『D&D』にも逆輸入、世界中で定着していった...。

さて、描いたエルフは、僕が中学生の頃『D&D』や『ロードス島戦記』と共にハマっていた、栗本薫の大河ファンタジー『グイン・サーガ』の天野喜孝のイラストを下敷にさせてもらった。今も昔も、あちらの世界に片足を突っ込んだままということか。

満月に花の輪の中舞ひ踊る風来松