バベルの塔や、ア・バオ・ア・クーの勝利の塔は以前取り上げた。世界最古の塔となると、死海の北にあったイェリコの監視塔だったとされる。古代ギリシャ語のアレクサンドリアの大灯台は、世界七不思議の一つ。スペインのヘラクレスの塔には、3頭6腕6脚の怪物ゲリュオーンの死体が埋められているという。
日本語の「塔」の語源は、サンスクリット語のस्तूप(ストゥーパ)。古代インドにおいて、饅頭型に盛り上げた土の塚を指した。それが、日本語で「卒塔婆」とされ、真ん中の「塔」だけが残った。東洋の塔は、釈迦の遺物を納めた仏舎利塔に始まり、寺院の五重塔や三重塔のような木造の仏塔が建てられた。また、古代神道の、神の依代神奈備や、磐座信仰の石塚も、供養塔としての仏塔に結びき、そこに宿る死者が荒ぶる神とならぬよう慰霊・鎮魂の意味が込められた。江戸時代までは、これらの仏塔のみを塔としたが、明治以降西洋建築の塔の概念が入ってくる。
夏目漱石が、留学時の経験を題材として小説にした〈ロンドン塔〉は、彼が訪れる約800年前の1078年につくられた。場所はイーストエンドの〈タワーブリッジ〉の隣。元は要塞で、現在も儀礼的な武器の保管や、礼拝所として使用されている。世界で2番目のカットダイヤモンド、3106カラットの〈カリナン〉(南アフリカからエドワード7世の誕生祝に贈られた)も、ここに! また、塔のワタリガラスがいなくなると、ロンドンが滅ぶとの伝説から、世話係がいる事は前にも書いた。さらに、ここでは、多くの処刑が行われ、あのトマス・クロムウェルも。姦通罪で処刑されたヘンリー8世の2番目の王妃アン・ブーリンは幽霊となって現れるという…。
イギリスといえば、スコットランド人のお雇い外国人ウィリアム・キニンモンド・バートンの設計した〈凌雲閣〉が知られる。明治時代に、東京浅草と、大阪に建てられた。特に東京の方は〈浅草十二階〉とも呼ばれ、大阪の〈通天閣〉・神戸の〈神戸タワー〉と並び、〈日本三大望楼〉と言われた。実はこのバートンを紹介したのは、永井荷風の父・永井久一郎(官僚で、渡欧中に知り合った)。また、アーサー・コナン・ドイルとも親交があり、夏目漱石の第一高校時代の教師ジェームズ・マードックとも同郷で旧知の仲だった。
この〈凌雲閣〉と同じ頃、パリに〈エッフェル塔〉も建てられた。フランス革命100周年を記念して行われる〈第4回万国博覧会〉の目玉として、世界一の塔をという趣向(当時の最高は同国の〈ストラスブール大聖堂〉の142m)。かくして、312mの鉄塔が完成したわけだか、当時は景観を損ねると、反対意見も多かった。あの文豪ギ・ド・モーパッサンもその一人だったが、完成後はよく塔の1階のレストランへ通っていたらしい。曰く、「ここだけがパリで唯一エッフェル塔を見なくても済む場所だから。」この話から、『エッフェル塔が嫌いならエッフェル塔へ行け』という諺も生まれた!
パリというと思い出すのが、ビクトル・ユゴーの『ノートルダム・ド・パリ』。かっては、『ノートルダムのせむし男』の邦題だったが、「せむし男」が差別用語だとして、最近では『ノートルダムの鐘』となった(日本だけ)。
筆者も旅行先で、結構な数の塔に登った記憶がある。やはり、最も印象的だったのは、スペインの〈サグラダファミリア〉。ここには聖書の登場人物を象徴する18の塔がある。いよいよ、2026年に完成! その年は時代の大転換点とか言われたが、どうもは2034年らしい…。アントニオ・ガウディが残した数多の暗号や、彼の〈フリーメイソン〉説もある。他にも、ニュージーランドの〈スカイタワー〉、スペイン・バルセロナの〈コロンブス記念塔〉、チェコ・プラハの〈火薬塔〉。もちろん、日本でも、〈東京タワー〉、〈名古屋テレビ塔〉、〈札幌テレビ塔〉(全て「塔博士」内藤多仲の設計)、〈太陽の塔〉もある。高さでいえば、単なる塔なら〈東京スカイツリー〉の643mが世界一! ただ、建築物全てとなると、ドバイの〈ブルジュ・ハリファ〉の828mが世界最高。
絵に描いたのはのは、ディズニーでもアニメ映画化された、『塔の上のラプンツェル』。元々は民話をグリム兄弟がソフトに改変したものだ。では、改変前はというと…。〈ラプンツェル〉というのは、妊婦に良いとされる植物ノチシャの事。ある女が、これを魔法使いの敷地から盗み取り、その代償として差し出されたのが、生まれた赤子ラプンツェル。彼女は魔法使いに塔に閉じ込められたまま成長する。そして、ある時王子と出会い、その長い髪で彼を招き入れる。やがて、逢瀬を重ねる内に二人の間に子ができる。その事が魔法使いにばれ、ラプンツェルは荒野に追放、その事を知った王子は塔より身を投げる。一命はとりとめたが、茨に両目を貫かれ失明してしまった…。だが、しかし! それから7年後…なんと、森をさまよい続けた王子は、荒野で双子を育てていたラプンツェルと再会! 彼女の流した涙で、王子の目も治り、2人は国へ戻って幸せに暮らしましたとさ。よもや、よもやの、大逆転パッピーエンド…!
行きつけの近所のコーヒー屋〈SIROCAFE〉のマスターは、塔マニアだ。いつか、自分の塔を作るのが夢らしい! 塔の上のコーヒー屋…是非、実現して欲しい!
秋天の高き塔より誘われて抗えずまた捕われていく風来松