原子番号79の金属元素。金は、宇宙で、高密度の天体が融合する際に起こる爆発〈キロノヴァ〉等で生み出され、隕石として地球に降り注いだ。また、地球中心部のマントルで生成されると言う説もあり、さらに核の中には1000倍の濃度で存在しているとも言われる!
精錬の必要が無い形で存在するため、鉄などより早くから人類に利用されてきた。長い年月を経ても、錆びたり腐食したりしない為、不老不死とも関連付けられた。紀元前3000年頃に利用され始め、前2600年の古代エジプトのヒエログリフに記述が残る。ツタンカーメンの黄金のマスクも思い出される。エジプトは有数の金の産地だった。紀元前7世紀頃に、リディアで最古の金属貨幣〈エレクトロン貨〉が、天然の金銀の合金で作られる。その後、貨幣(コイン)のアイディアは、ギリシア・ローマ、インド等の西アジアにも急速に広まって行く。
日本では、福岡県志賀島の〈漢倭奴国王〉の金印が有名。かつては日本での金の産出は無く、海外からの輸入のみだったが、749年〈東大寺盧舎那仏像〉の建立時に、全国で探索がおこなわれ、宮城県湧谷から発掘。聖武天皇は神仏の奇跡とし、元号を「天平」から「天平感宝」に改元した! 遣唐使の滞在費用にも砂金が使われ、後の黄金の国ジパングの伝説へと繋がっていく。
金といえば、豊臣秀吉の〈黄金の茶室〉、徳川家康の〈金陀美具足〉、名古屋城の〈金の鯱鉾〉や、あの徳川埋蔵金で見つかった〈黄金の家康像〉もあった。佐渡の金山も、古くは『今昔物語』等にも載るが、家康の所領となって直ぐ、北山で金脈が発見され、その後の徳川幕府の重要な財源となった。
海外では、南米奥地にあるとされた黄金郷エル・ドラードを求め、大航海時代に特にスペイン人の〈コンキスタドール〉が大挙してアマゾン奥地等の探索を行った。ドイツ人やイギリス人(ウォルター・ローリーが知られる)も多かったが、いずれも失敗終わった...。古代インドの伝承にある金銀島も同様。伝説ではない〈ゴールドラッシュ〉も、アメリカ・アラスカ・ブラジル・オーストラリア・南アフリカ等で発生した。
さて、妖怪では、金霊(かなだま)がある。金の精霊・金の気。鳥山石燕『今昔図画続百鬼』では、善行を努める家に降る大判小判として描かれている。元ネタは、杜甫の詩で、「無慾な者そこ金の気を見分けられる」の意。また金玉というのもあり、こちらは怪火の類。東京青梅・千葉印旛・静岡沼津等に現れ、手にした者の家は栄えるという。隕石の事だろうか...。これも、水木サンは見たことがあると言っていて、その姿は空飛ぶ巨大な10円玉だったらしい...!? 銭神(ぜにかみ)は、世界中の銭の精が薄雲状となり、軒を通る。刀で切り落とせば、こぼれ落ちる! 前兆として、夕暮れ時に薄雲が立ちこめ、話し声のような音が聞こえるという。金神(こんじん)は、〈陰陽道〉の金気の精。方位・土地の神。これのいる方向に、工事・引っ越し・旅行・嫁取り等をする事は凶とされ、行うと家族七人が死ぬ金神七殺! 岡山県倉敷市船穂町の小野うたの元に金神が降臨した事を起源とするのが、〈金光教〉。同様の事が京都でもあり〈大本教〉となった。
西洋では、『ギリシア神話』に、触れたものを金にするミダース王の話がある。老師シーレーノスを助けた礼としてデュオニソスより与えられた力だったが、食べ物も娘のマリーゴールドも金となってしまい、元に戻してもらう。その後、この王はアポロンによって、耳をロバに変えられたりと、さんざな目に遭う。そう、あの『王さまの耳はロバの耳』の話だ! 『新約聖書』でも、東方の三博士の一人メルキオールが、生まれたイエスに、王の象徴として、黄金を贈っている。アイルランドのレプラコーンは、上手く捕らえられれば、地中の黄金の在りかを教えてくれるという妖精。また、金の入った壺を持ち、一瞬でも目を離すと悪戯されるという。その名は、イエイツによると「片足靴屋」の意味。1日に片足しか作らないからとも、一本足だからとも。あの『グリム童話』の『小人の靴屋』も、レプラコーンだとも言われる。ドラゴンが金銀財宝を守っていたり、ドワーフが金細工が得意だというのも、有名な話だ。
さて、そんな金を作ろうというのが錬金術。古くは、古代エジプト・アラブ・インド・中国でも、不老不死の仙丹を作る原料の為に研究された。金を卑金属より変える際の触媒となる霊薬は、賢者の石と呼ばれた。ここから先は次頁に譲るとする。
2つ目の林檎落ちれば金となる風来松