「姫」と付く妖怪は多い。
これまで出てきた中にも、山姫、預言獣神社姫もいた。
妖怪ではないが、やはり姫というと、日本最古の物語『竹取物語』のなよ竹のかぐや姫だろう。光る竹の中より生まれた時は三寸(約9cm)ばかりだったが、三カ月で妙齢の美しい娘に成長。五人の公達から求婚を受けるも彼女の出した難題(仏の御石の鉢・蓬莱の玉の枝・火鼠の皮衣・龍の首の珠・燕の子安貝)に何れも応えられず。やがて、帝からもお声がかかるが、八月十五日の満月の夜、月よりの使者と共に天に帰って行った...。帝へ不死の薬を贈るが、これは使用されず日本一天に近い山で焼かれてしまう。ここが富士山である。月人によると、かぐや姫は天界で何らかの罪を犯して下界へ降りていたという。嫦娥や竜吉公主と同様だ。
かぐや姫 と双璧というと、『浦島太郎』の竜宮の乙姫だろう。元の話だと、乙姫は助けられた亀の化身となっている。また、浦島太郎に竜宮城でアダルティーな接待をしたり、玉手箱で鶴と化した太郎と蓬莱山へ旅立つラストだったりする。子供向けの今の話は、明治の教科書に載った巖谷小波版。
さて、描いた姫の一人が橋姫。元は橋の袂に祀られた男女二対神の守護神。これに祀られた橋の上では、『葵の上』等の謡曲は歌ってはならないという。有名なのは、京都・宇治川の橋姫。夫を別の女に取られ、貴船神社に祈り鬼神となった。敵だけでなくその親類縁者全てを殺したが、渡辺綱に〈髭切(この後、鬼丸)〉で腕を切られる。『平家物語・剣巻』にも載る。あの丑の刻参りも彼女が起源。他にも、大阪淀川の長柄橋、滋賀瀬戸川の唐橋にも橋姫の話が残る。
鈴彦姫は、神楽鈴のような頭部をした姿で『百器徒然袋』に描かれている。鈴の付喪神か。鈴は、古くから世界各地で祭具として使用され、霊的意味合いが強い楽器である。
清姫は、能や歌舞伎でお馴染み。美しき僧・安珍に欺かれた清姫は、蛇体となり日高川を泳ぎ渡り追いかけ、〈道明寺〉にて、安珍の隠れた梵鐘ごと焼き殺した。400年後の1359年、鐘を再建し女人禁制の供養をした際、白拍子が現れ蛇体と化して鐘を引きずり降ろしたという! 更に200年後、仙石秀久に山中で発見された鐘は〈妙満寺〉に納められた。
姫路城の天守に棲む長壁姫(刑部姫)は、年に一度城主と会い、城の運命を告げると言う。狐の化身とも(弟は源義経と静を助けた源九郎狐)、姫山の神とも。『今昔画図続百鬼』では、蝙蝠を従えている。『西鶴諸国ばなし』には、八百の眷属を操り、自在に人心を読み、弄んだとある。池田輝政が病になった時には、祈祷の阿闍梨を二丈(6m)の鬼神と化し蹴り殺し、その後、輝政も彼女の怒りに触れなくなったとされる。あの、宮本武蔵とも対決している! 妹も福島猪苗代亀ヶ城に棲む亀姫。1640年城代の堀部主膳は彼女の使者をぞんざいに扱い死亡。その後、斬り殺された大狢が正体だったという。泉鏡花が『天守物語』に書いた。
巷では、ディズニープリンセスが人気だが、いやはや日本の姫君達の方が強そうだ...!
春一番百姫百妖繚乱す風来松