前回、興居島のことを調べた時に、越智氏・河野氏の来歴を記した『予章記』を知った。そこに、『推古天皇の世に、三韓(おそらく新羅)が鉄人を押し立て八千の兵で攻めてきた』とある。越智氏の祖・小千益躬が、明石にて三島明神の加護により、足の裏が弱点と見抜きこの鉄人を討ち取ったとある。なんだが、『ギリシャ神話』の青銅の巨人・ターロスを思わせる。この鉄人の正体は良く分からないが、普通に考えれば、鉄製の武具で身を固めた強者か?
鉄。元素番号26。大和言葉では「くろがね」。漢字の「鉄」は、「金を失う」と書くため縁起が悪いとされ、「鐵」や、「鉃」を用いる企業も少なくない。地球の内部は、鉄が30%だという。核では、溶けた鉄が地球の自転と異なる速度で回っている為、地磁気が生じるとされている。磁気といえば『X-MEN』のマグニートー。地球の磁場や、宇宙の隕鉄、人間の体内の鉄分までも操る。鉄棒をした時等の鉄臭い匂いは、実は人体の汗に含まれる物質と、鉄イオンとが反応して生じる物で、鉄そのものの匂いではない!
鉄は、紀元前3000年頃のエジプトやメソポタミアの遺跡から発掘されているが、これは隕石由来の隕鉄である。製鉄は、紀元前1700年のヒッタイトに始まり〈トロイ戦争〉で、ヨーロッパ中に広まった。また、鋳造技術は紀元前七世紀の中国で発明され、紀元前3世紀頃には朝鮮を経て日本へ伝来。6世紀には、出雲や吉備で〈たたら製鉄〉が始まった。
西洋の占星術や錬金術では、鉄は軍神マルスや、火星と結びつけられる。また、魔法との相性が悪いとされ、悪魔・妖精除けに、馬の蹄鉄が使われる(これ、逆に飾ってるのをよく見かけるが逆U字が正解!)。また、『ギリシャ神話』では、人類の時代は5つあり、今はその最後の鉄の時代で、人々が鉄で争う時代...。『北欧神話』には、9つある世界の一つが、鉄の森ヤルンヴィド。中国には、鉄を喰う囓鉄(けってつ)がいる。これの糞からは、鋭い武器が作られるという。
日本には、前にも書いた鉄の牙を持つ鼠鉄鼠がいる。また海外同様、鉄は邪を祓うとされ、『遠野物語』にも、河童を鉄の針で退治した話や、猟師が魔除け用に鉄の弾をもつという話が書かれている。
製鉄の神といえば、まず『古事記』の天津麻羅(あまつまら)。例の岩戸隠れの段で、祭器として八咫鏡や、刀・斧を作った。ただ、神ではなく、鍛冶集団という説もある。「まら」は、モンゴル語の「鉄」からとも、鍛冶が火を見る「目占」からとも。
天津麻羅は『日本書紀』の天目一箇神(あめのまひとつのかみ)と、同一視される。名の通り一つ目の神。鍛冶が鉄の色で温度を見る為、片目をつむる事が原因で失明してしまう職業病からきていると考えられる。火男(ひょっとこ)もこの神が原形とも言われる。竈の火を吹く口の形、そして本来は左右の目の大きさは違っている。『鬼滅の刃』の刀鍛冶・鋼鐵塚蛍も、ひょっとこの面を付けていた。
更に、三重桑名〈多度大社〉に祀られる一目連も習合され、同一の神とされるが、こちらは元々暴風雨の司る龍神で、片目が潰れているため、一緒にされてしまった。また、和歌山の一本だたらも、これの零落した姿とも言われる。一つ目といえば、巨人サイクロプスがいるが、こちらは間違いなく鍛冶と関係がある。
国文学者・萩原千鶴は、『出雲風土記』にある日本最古の『鬼』も、おそらく天目一箇神に連なり、その正体は採掘や冶金に携わる山人への畏怖が生んだのでは...と考えている。また、民族研究の若尾五雄は、鬼伝説と鉱山分布の関連を見いだし、『桃太郎』や酒呑童子も、実は鉱山師ではないかと推測している。
最後に紹介するのは、中国地方を中心に信仰される金屋子神(かなやごがみ)。島根安来にたたら製鉄を伝えたとされ、〈金屋子神社〉に祀られる。高天原から雨乞いに応えて降りてきたのだが、その後各地で村下(鍛冶場の技術長)となり指導を行ったという。この際、掴んだ蔦が切れ、犬に噛まれて死んでしまった為、蔦と犬を嫌う。逆に、蜜柑と藤と死者を好む。鍛冶師達は仕事が上手くいかない時、たたら場に死体を立てかけたり、棺を担いで回ったりした。また、金屋子神は、醜女の女神と言われ、嫉妬深く、女嫌い。この為、作業場は女人禁制だったし、村下の妻は作業が終わるまで、化粧をしなかった。また、女の入った風呂にも入らなかったという。
描いたのは、『もののけ姫』のエボシ御前。彼女のたたら場は、女ばかりだった。エボシは国や神や、古い因習の破壊者なのだろう。エボシ御前のモデルは鈴鹿御前(立烏子)!
燃ゆる火と鉄神さえ殺そうとも風来松