170. 玄象

村上天皇遺愛の琵琶の名器。三種の神器と並ぶ、皇位継承の宝物で、内裏よりの持ち出しも禁じられた。 

元々、唐へ留学した藤原貞敏が、琵琶博士・廉承武より譲り受けた〈三面琵琶〉の一つ。發面に黒い象が描かれていたのが名前の由来。

後の二つは、〈青山〉と〈獅子丸〉。後者は日本へ戻る際、龍神により龍宮へも持ち去られるも、後に村上天皇自らが奏でる事で取り戻し、藤原師長に与えられた。師長はこの琵琶で雨乞いの秘曲を弾き、龍神を感応させて雨を降らせた!

玄象も一時、盗難に合うが、源博雅が羅城門の鬼より取り戻す。下手に奏でたり、手入れが不十分だったりすると、わざと音をださなかったりした。火事の時は、ひとりでに庭に出たともいう! 時代の流れの中で、行方知れずとなってしまった…。『今昔物語』に載り、能でも演じられる。

源博雅には別の楽器の話もある。日本一の龍笛(横笛)と称される〈葉二(はふたつ)〉だ。博雅が朱雀門の前で何度かセッションした者と交換して手に入れたのだが、後に浄蔵によりその者はであったと明らかになった! 赤と黒の葉の模様が名前の由来。こちらは、〈宇治平等院経蔵〉に無事、納められている。この話は、『十訓抄』に記され、月岡芳年や、葛飾北斎にも描かれている。

しかし、つくづくと縁のある男よ、源博雅。さすがというべきか…。

絵は岡野玲子・夢枕獏のマンガ『陰陽師』より。

龍笛に鬼も誘われ梅月夜風来松