平安時代の京の闇夜を練り歩く、鬼、妖怪の行列。
運悪くこれに遭遇した者は、一族郎党死に絶えるとされ、非常に恐れられた。陰陽師は百鬼夜行の出現日を予測し、人々はその日の外出を避けた。それぞれの月毎の日にちが『口遊』や『拾芥抄』に残されている。
百鬼夜行の害を避けるという呪文もあり、「かたしはや えかせにくりに くめるさけ てえひ あしえひ われえひにけり」と言う。
『今昔物語集』には、藤原常幸が愛人宅へ向かう途中、〈美福門〉あたりで遭遇した話や、若き日の安倍晴明がいち早くこれの鬼を見つけ、師匠・賀茂忠行に感心された話が載る。『江談抄』でも、小野篁と藤原高藤が。
描かれたものでは、なんと言っても室町時代の土佐光信の作と伝わる『百鬼夜行絵巻』が有名。〈大徳寺真珠庵〉に伝わる。絵に描いたのは、この絵巻のトップバッターの青鬼。ただ、ここにいるのは、器物が長い年を経て変化した付喪神が大半。かつ、ユーモラス! 京の人々が怖れた百鬼夜行は、江戸時代に鳥山石燕により描かれた『画図百鬼夜行』の方が近いと思われる。
こちらは、まさに妖怪大図鑑といった趣で、天狗・河童・狸・狐・猫又・鉄鼠・犬神・牛鬼・絡新婦・姑獲鳥・山姥・山童・雪女・火車・手の目・反枕・塗仏・おとろし・ぬらりひょん・ぬっぺらほふ・元興寺...と、これから取り上げる妖怪達の目次にしてもいいくらいだ!
現代でも、これを元ネタに京極夏彦が『百鬼夜行』シリーズと呼ばれる小説を書いている。映画では、塚本晋也監督『悪夢探偵2』の百鬼夜行めいたシーンが恐ろしく、印象深い。
ヨーロッパでも、これに似たワイルドハントというのがあり、いつか取り上げたい。
最後に、句は正岡子規。怖がりだったようだが、妖怪は好きだったようで、〈妖怪句〉というジャンル分けまでして、多く作句している。これもまた、別の機会に。
宿替の百鬼群れ行く野分哉正岡子規