309. 仮面

先日、職場のハロウィンパーティーで、以前メキシコのルチャリブレ会場で購入した、ドラゴン・キッドのマスクを被ったのだが、妙な高揚感と背徳感、ちょっとした恐怖さえ感じた。

仮面を用いた儀式は、紀元前4000年頃、既に行われていたという。アルジェリア〈タッシリナジェールの岩壁画〉に描かれている。また、真偽は定かではないが、近年イスラエルで見つかっている複数の石仮面は、9000年前の物だとも言われる。

日本でも縄文時代の土面、飛鳥時代の木製面が出土。それらは、宗教的儀式に用いられたと思われ、仮面を着けることで精霊・動物などに変化したとされる。来訪神はじめ仮面の文化は、今も世界各地に存在する。

鳥山石燕の『百器徒然袋』には、面霊気が載る。解説には、『聖徳太子の時、秦の川勝あまたの仮面を制せしよしかく生けるがごとくなるは、川勝のたくめる仮面にやあらんと夢心におもいひぬ』とあり、幾つかの面が描かれている。秦河勝は、能・狂言の原型である申楽の始祖とされる。聖徳太子が彼に、六十六の芸に用いる六十六の面を作らせたと言う。それらの優れた面、古くなった面に魂の宿ったという事は付喪神の一種と言える。秦氏は、蚕・絹等の織物、土木技術、製鉄等を広め、〈稲荷神社〉も創祀した。

仮面で思い出されるのが、能でも知られる肉付きの面。意地の悪い姑が嫁を驚かせようと付けた鬼女の面が外れなくなるという話で、子供の頃聞いた時は、かなり怖かった記憶がある。なんと、福井県願慶寺に肉付きの面が現存している!

〈デスマスク〉も、古代ギリシアからの風習。生前に作っておいて、葬儀の折に誰かがそれを被り参列したと言う。カエサル・ダンテ・シェイクスピア・ナポレオン・リンカーン・ノーベル・ショパン・トルストイ・ヒッチコック...日本でも、織田信長・夏目漱石・森鴎外らの物が残る。

描いた2段目の右から2つ目は、近年見かける機会の多いガイ・フォークスのマスク。〈アノニマス〉等が抵抗運動のシンボルとして被っている。1605年、ロンドンで国会議事堂を爆破し、カトリックの国家元首を復活させようと企んだ人物。彼の命日の11/5は祝日となり、盛大な祭りが行われる。ロンドン出身の友人に聞くと、今でも近所でキャンプファイヤー的なことを楽しむらしい。

ここ数年のコロナ禍において、世界中で着けられたマスク。やはり、その光景は異様で、自分も含め、誰もが見知らぬ何かになっていくような恐怖を覚えた...。

夜店より吊られて面の口開く時計子