11. 犬/狼

日本では、ヤマイヌ=狼に対して、イエイヌ=犬といった。15000年以上前に狼から分化して犬は誕生した。

イスラエルでは、仔犬を手にして埋葬された12000年前の遺体が見つかっている。

古代メソポタミアや、古代ギリシャでも、彫刻や壺の絵に犬がいる。古代エジプトでは、リードをつけて歩いているレリーフが! 最古のものは、5000年〜9000年前のサウジアラビアの壁画。

エジプトでは、犬は死を司るアヌビス神と死者との仲介役だ。メソアメリカや古代中国でも同様に冥界への案内役。地獄には三ツ首の番犬ケルベロスもいる。ゾロアスター教で、神聖視される一方、ユダヤ教・イスラム教・ヒンズー教では、不浄・邪悪な存在とされる。

日本では、縄文時代の遺跡から埋蔵された犬が発掘されている。〈日本犬〉の祖先〈縄文犬〉だ。『日本書紀』には、日本武尊悪神の使いの白鹿を殺した後、道に迷ったのを助けたのが一匹の白い犬だった...とある。鎌倉時代には〈犬追物〉で九尾の狐の練習台にされ、南北朝時代には畑時能の愛犬・犬獅子が共に戦場に出た。戦国時代には伝令犬として駆け、江戸時代には〈生類憐みの令〉でなぜだかチヤホヤされ、現代ではピッチャーにボールを運んだりも!(広島カープのボールドック・ミッキーくん♡)とにかく、日本人は犬と共に歩んできたらしい。江戸時代の頃までは食べていたが...。

妖怪では、かわいいのからいくと岡山県のすねこすり。雨の夜、足の間を擦りながらすり抜ける。犬神は、憑き物筋。九州・四国に多い。犬を首だけ出して土に埋め、飢餓の一念が極まったところで首を撥ねて作る。外法故に平安時代には禁止令が出され、近年まで犬神つかいの血筋は差別されてきた。元は弘法大師・空海の描いた魔除けの犬の絵だとか、源頼政が退治したが成ったものだとか、あの九尾の狐が変じた殺生石の破片から生じた...等と言われる。

送り犬は全国に話がある。山道でぴったりくっついてくるのだが、転ぶと襲ってくる。送り狼も同様。これは、人を監視する狼の習性からとも言われる。千疋狼となると、そう悠長ではなく、群れをなし梯子状になり襲ってくる。鍛冶が嬶小池婆という首領が最後に現れて、後々人間に化けて死んでいるのが見つかるというパターン。高知県室戸などに伝わる。

外国では、黒犬(ブラックドッグ)=ヘルハウンドがいる。古くからイギリス全土に現れる魔犬で、これをモデルにコナン・ドイルは『バスカヴィル家の犬』を書いた。他にも、フランスのジェヴォーダンの野獣や、中国のシイ等もいるが、これはまたの機会に。

狼は、アイヌやネイティブアメリカンら狩猟民族に、神格化されている。『ギリシャ神話』でもレートーは神を産み、一方『北欧神話』のフェンリルは神の敵とされた。

日本でも古くから、狼信仰があり大口真神として崇拝された。〈武蔵御嶽神社〉の伝承では、先に述べた日本武尊の案内をしたのは、白い狼になっている。絵に描いたのはここの護符。小倉美惠子著『オオカミの護符』によると、関東一帯で昭和50年頃まで行われていた焼畑農業で鹿・猪を捕食する狼が神使とされたとある。

実は、ここ愛媛県にも狼信仰の〈木野山神社〉がある。高龗神闇龗神を祀るが、元はこの神々の姿はであるという。金子兜太の俳句と通じる...! 日本武尊からの狼信仰以前、秩父三山の神が龍神であったからなのか...。和歌山県田辺市龍神村にも〈オオカミ神社〉があるらしい...。これは一旦、宿題とさせてもらう。

狼をりゆう神と呼びしわが祖金子兜太