32. 雷

大和言葉では、稲が実を結ぶ頃よく鳴る事から「稲妻」。『日本書紀』には「雷電(いなつるひ)」の名で載る。方言では「神立ち」も。「かみなり」の語源は「神鳴り」で、古来より世界各地でと結びつけられた。

『ギリシャ神話』のゼウス、『ローマ神話』のユピテル(ジュピター)、バラモン教のインドラ、『北欧神話』のトール...主神クラス! 中国にも雷公雷師が。『アイヌ神話』は雷とを同一視しており龍神カンナカムイがいる。また、落雷を受けやすいカシも崇拝され、避雷針としても多く植えられた。

『日本神話』の雷の神は建御雷(タケミカヅチ)伊弉冉尊が切り落とした迦具土の血より生まれた。剣・相撲の神ともされ、要石に住み地震を起こす鯰も御する。俵屋宗達の『風神雷神図屏風』の雷神の姿も有名。

また、黄泉の国伊邪那美命の身体の各部に生じた、八柱の雷神もいる。これが北野に火雷大神として祀られていたのだが、菅原道真の死後結びついて、雷公となる。ちなみに道真の地、桑原にだけ雷が落ちなかった事から、「くわばら、くわばら」が雷よけの呪文となった。クワもカシと同様、神聖視される。

アメリカ・インディアンの伝説には、サンダーバードがいる。雷を自在に操る巨鳥。鯨を主食とする! 1890年にアリゾナ州でカウボーイがとらえた巨鳥、1960年から度々目撃されるUMAも、これと考えられる。

日本の妖怪には雷獣がいる。雷雲に乗り空を飛び、落雷と共に落ちて来るという。体長は60cm〜1m程。仔犬・狸・鼬・猫のような姿。鋭い爪を持つとも、水かきがあるとも。好物はトウモロコシ。もこれだともいう。江戸時代に越後で捕獲されたとか、鮫ヶ橋で飼われていたという話も。明治や昭和になってからも、目撃例がある。関東では、落雷があった稲田には注連縄をすぐに張り、雷獣を空に戻した。

かつて、筆者が住んでいた広島県五日市にも雷獣が落ちたとの記録がある。1801年5月。塩田の塩釜の中で死んでいたといい、それを書き写した図が残る。他の土地の姿と全く異なり、体長は1メートル程度。四足に鋏を持ち、鱗のようなものも見られる。蟹と蜘蛛を合わせたような形...。

さて、いわゆるカミナリさまは、角を生やし虎の褌というの姿。太鼓を打ち鳴らし、人の臍を取るという。鬼門である「丑寅」からの発想か。

関係ないが、句に詠んだ〈甲子園〉は今年百年。名前の由来は、完成の1924年が、十干十二支のそれぞれの始めの年、「甲」と「子」だった事から。

はたた神も覗きに来しや甲子園風来松