18. けさらんぱさらん

白い毛玉のような物体で、空中をフワフワ飛んでいる。動物か、植物か、何なのか正体不明なところは、実に妖怪的!

見ると幸運になると言う。持っている事は人に言わないほうが良いとされる事から、密かに代々伝えている家もある。穴の空いた桐の箱で、おしろいを餌に飼い、繁殖するとも言う。一年に2回見てはいけないとも。東北地方に多く伝わり、嵐の前に雷と共に降るとも。また、同地のオシラサマとの関係があるとの説もある。

江戸時代の『和漢三才図会』にも、酢荅(ひいさらばさら)の名が載る。これは、卵から栗大の白い玉。動物の肝臓・胆嚢に生じる。蒙古では雨乞いに用い、オランダでは、痘疹の治療に使ったとある。

語源は、梵語の「袈裟羅婆娑羅」、スペイン語の「ケ・セラ・セラ」(そんな事ある?)、東北弁の「何かさっぱり分からん」(これでは?)

近世、民俗学でもけさらんぱさらんは取り上げられた。1952年民俗学会の『民間伝承』で佐藤光民が山形県等の実例を発表。柳田國男らが議論を行った。同じく民俗学者の岩崎敏夫の福島相馬市の実家には実物があり、2020年岩手県で開催された『遠野物語と怪異』展で展示された。1970年代にもメディアでブームとなったが、この時のものは、ガガイモの冠毛がほとんどだったという。

けさらんぱさらんの正体としては、幾つかが考えられている。まず、先に挙げた、ガガイモ・アザミ・ブタナ・タンポポ等、植物の冠毛。ビワの近くでも良く見られビワの木の精とも呼ばれる。次に江戸時代の文献にある牛馬などの胆石・結石。雪虫やアオバハゴロモの幼虫とも。鉱物のオーケン石説もある。

海外にも、似たものがあり、ゴッサマーエンゼルヘアと呼ばれる。

実物は、意外と幾つか展示されていてる。〈兵庫県姫路市立動物園〉、〈横浜市馬の博物館〉(2024年8月現在休館中)、山形県鶴岡市〈加茂水族館〉。

実は筆者は、数年前に『けさらんぱさらんの秘密』なる同人誌を見つけ、悩んだ末に購入しなかったのだが、今回これを書くにあたって、ネット上で発見した! そこには、山形県北村山郡の伝承では、2月〜3月神社・深い山で見つかる。キツネのしっぽの先から落ちた、雷と一緒に落ちてきたとも。なんと、この本の作者は小学校の時に実物を捕まえたことがあるという!〈多摩動物園〉に問い合わせところ、けさらんぱさらんではとの返事があり、自由研究にも取り組んだという。いい話じゃあないか!

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