2004年〈オックスフォード英語辞典〉に、「manga」・「okonomiyaki」と共に「isekai」が新たに追加された!
異世界と言えば、映画にもなった都市伝説きさらぎ駅、天狗小僧・寅吉の仙境等をこれまでにも書いた。『千と千尋の神隠し』も、絵に描いた小野不由美の大ヒット小説『十二国記』も、異世界が舞台だった。『浦島太郎』や、『リップヴァンウィンクル』等で異世界から戻ると、永い年月が経っているパターンが多い。
異世界へと繋がる神隠しが起こるのは、神域や禁足地もしくは境界だ。福井の石動山、岩手の立石山、長野の御嶽山、千葉の八幡の藪知らず等が知られる。一方、何でもない場所でも起こり得る。東京八王子には神隠しに遭った者を、名を呼んだり太鼓や鉦を叩いて取り戻す場所呼ばわり山がある。神隠しは、天狗隠し・鬼隠しとも呼ばれる。雨女も人を攫って行くが、逆に雨の日に神隠しで子供を失った女がこれになったとも言う。以前書いた台湾の魔神仔(モシナ)も人を攫って行く。
神隠しに遭う者は、神経質だったり、知的障害があったり、産後の肥立ちが悪かったり…と、不安定な者が多い。やはりこれも境界といえる。また、ほとんどが、女子供で、男や老人の例は少ない。恐らく、間引きや、人攫い、また何らかの事情で自ら姿を消すといったころが真相だからだろう。
神隠しは東北に多く、『遠野物語』の寒戸の婆が知られる。子供の頃にいなくなり、30年後に姿を現した。彼女の異世界は、まず山だろう。『耳嚢』にも、便所でいなくなった者が、20年後に同じ便所から出てきた話が載る。こういうパターンは異世界に行っていたというより、時空をワープしてしまった感が強い。『吾妻鏡』には、平惟茂の子が神隠しにあって4年後に狐塚から見つかった話が載る。その時、刀と櫛を授かっていた。と言うことは、異界はお稲荷さんの神界か?
海外の例も幾つか紹介したい。1753年イタリア・シチリア。アルベルト・ゴルドー二は、友人らの目の前で突然消失。22年後に当時のままの姿で生還した。そして、暗闇に開く穴・白い滴・高速で動く思考・肉のない魂・永遠の若者の住む空飛ぶ都市について話し、再び同じ場所で姿を消した…。話を聞いた神父はそこを悪魔の罠として立ち入りを禁じたという。1868年アメリカ・ミシガン。行方不明となった3歳の少女が、翌朝、巨大な黒い獣と共に姿を現わす。少女は獣をミスターウルフと呼び、帽子や上着は食べられたと語った。1922年スウェーデン・コルスパ。8歳のオースティン・エングストロムが森の中で消息を絶つ。4時間後に発見された彼は、3つの巨大UFOを見たと思ったら、次の瞬間道の上で寝ていたと話した。1975年太平洋の無人島ハウランド島。米軍パイロット・エディが〈F-14〉で島に不時着し、数時間後に海上で飛行機と共に漁船に救助される。彼は島民と半年間のんびり過ごし、島の女に「この島は時々飛行機を呼び寄せる事がある」と聞いたと語った。この海域は、あの女性初大西洋単独飛行で知られるアメリア・イアハートが1937年に消息を絶った場所でもある…。また、この島は地球上で最も一日が遅く始まる島でもある。2017年インドネシア・ジャワ島のスカブミ。波に攫われ行方不明となった52歳のニニン・スカレシが、1年半後、同じ場所の砂の中から生還。
その他にも、有名なバミューダトライアングルや、謎の失踪事件が多発する場所は世界中にある。この世には、様々な異世界がポッカリ口を開けているらしい…。
春の闇髪一本まで神隠し風来松