284. 球

ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『幻獣辞典』に、『球体の動物』という項がある。そこには、『球体は固体の中で最も形が整っている。その表面上のいかなる点も中心から等距離にあるからだ。このことゆえに、一定の場所から離れることなく自転する能力が…』と記され、その後に、プラトンやヨハネス・ケプラーが、星も生きている巨大な球体動物だと考えた事、心理学者グスタフ・フェヒナーの『地球の球体という形が、我々の肉体の最も高尚な器官、人間の目の形である』という言葉が紹介されている。

目と言えばバックベアード。巨大な目だけの黒い球。夕方、ビル街に現れ、その目で睨まれたものは目眩を起こす。西洋妖怪の親玉とされるが、どうも水木サンの創作ぽい。ルドンの『眼=気球』をモデルにしたと言われる。

黒玉も、黒色の球体で、夏の夜などに蚊帳から入り込み、寝ている人の胸を押さえつける。正体は亡霊が姿を成す前の段階とも言う。

雪玉は和歌山に伝わる、雪の畑からモコモコと顔を出す丸い大きな目をしている白い球。無害。

風玉は美濃揖斐に伝わる、盆ほどの大きさの明るい球。歴史的大風の折に現れ、里と山を行き来した。

オーパーツでは、コスタリカのデイキスの石球。1930年に密林で発見された2cm〜2mの、200体以上の石の球。その配置は星図という説もある。歪みの一切ない完全に丸い球である〈真球〉とも言われたが、測定によるとかなりの誤差が認められた。また、紀元前300〜800年の物とされるが、当時の技術であっても、時間をかければこのレベルの物なら製作は可能という。

現在、〈真球〉に近い物はベアリング用の鋼球。最高の物で、100万分の8mmの誤差。ギネス記録は〈NASA〉の〈グラビティ・プローブB探査機計画〉の、ジャイロスコープ用の物で、1000万分の1インチの誤差!

ただ、完全な球体を地球上で作ることは、重力による僅かな歪みが生じる為、不可能らしい。もし、そんな物が存在すれば、平面との接点が0となり、宙に浮いてしまう?! いやいやいやいや…! 落としたボールが、地面との間に無限に中間点があっても、現実には到達するように、数学的なパラドックスでしょ?

句に詠んだ月は、やはり〈真球〉ではないが、太陽は限りなく〈真球〉に近いらしい! 絵は松本大洋の名作『ピンポン』より。

地上にも真球なんて無い満月風来松