88. 天女

天帝等に仕える天界に住む女官。羽衣で空を飛ぶ。

世界中に伝説があり、中国・朝鮮・モンゴル・インドネシア・タイ・ベトナム・インド・南米…と、広範囲に渡る。

元は、インドのキンナリーや、アプサラスと考えられ、共に美しい女性の姿。後者は「海に生きるもの」「水の中で動くもの」の意で、水鳥に変身する。これが、仏教の飛天となり、さらに中国の仙女となったと思われる。仙女には黄帝を助けた王母娘娘等の七天女が知られる。また、仏教の吉祥天女弁財天女もあるが、これはどちらかというと、天女というよりに近い。

漢以来仙女は翼のある姿だったが、南北朝以降、西方からの流れの飛天が入ってきて、雲中を飛ぶ姿となり、唐の頃には羽衣姿が定着した。

西方というのは、オリエントペルシャで、やはり天使の影響だと思われる。その中間に当たるのが、インドネシアがルーツの迦陵頻伽である。極楽浄土に棲み、美声で仏法を説く。

イスラム教の、あの世にいる永遠の処女フーリー、北欧神話の戦での生死を見定めるワルキューレも似た存在ともいえる。後者もまた、白鳥と関連付けられている。天女ではないが、スコットランドのアザラシの皮を被った美女シルキーも話のパターンとしては同類か。

さて、羽衣伝説は、日本各地に伝わる。大まかな筋としては、天女が白鳥などの水鳥の姿で湖や湖岸に舞い降り、美女の姿となり水浴びをする。それを覗き見た男が羽衣を隠す。天に戻れなくなった天女は、男と結婚して子をもうける。羽衣が見つかり天へ帰る。
 
古くは、『近江国風土記』にある滋賀県長浜市余呉湖の伝説や『近江国風土記』にある京都府丹後市峰山町比治山の伝説。これが、日本全土に広まったと考えられる。(大元はやはり、インドのプルーラブアス王の説話と考えられる)千葉県上総町・佐倉市、大阪府天野川・高砂羽衣! 沖縄県宜野湾市真志喜、アイヌにも伝わる。

中国の『捜神記』にも『羽衣天女』の話が載り、姑獲鳥鬼車との関連も…。

最も有名な羽衣伝説は、やはり静岡県清水市の〈三保の松原〉。この地に本店のある〈はごろもフーズ〉の社名も、やはりこれに由来する。しかし、この話…子供の頃聞いても、ちょっと、どうなのか…?と思われる内容だったので、社名としてもどうなのかと…。ここで、改めてこの地の羽衣伝説を確認してみた。

漁師・白龍が天女羽衣を持ち去ろうとしたが、返す代わりに天上の舞を見せてもらう。羽衣を舞いの前に返す折、白龍は一瞬天女を疑ってしまうのだが、「私達には人間のような嘘・偽りを申すことはございません」と言われ、自らを恥じたという…。なるほど、合点がいった!

羽衣を返せし刹那春天へ風来松