最近のクマ被害のニュースによると、持ち主のない家や、手入れの行き届いていない家の柿の実をクマは狙って来ているらしい。柿は、イノシシもサルもカラスもメジロも大好きだという。実は筆者はそうでもないのだが、今回、この果物は日本の〈国果〉だと知って驚いた!
柿は古代より霊木とされ、天界と下界を結ぶとも言われた。信州では、亡くなった人が降りてくるとか、幽霊もこの木に出るという。奈良では、嫁入りに柿の苗木を持参し、死んだ時はこの木を使って火葬した。これに限らず、柿を燃やすと火事になる、柿は火伏せになる等、火に関する言い伝えが多い。かの柿本人麿の名前から「かきのもとひとまる」という語呂合わせとも言われる…。彼自身も柿から生まれた神童という話も!
妖怪では、タンタンコロリンが知られる。宮城県仙台市に現れる、老いた柿の木の化身。僧侶姿。前述のように柿の実を取らずに放置している家に現れ、夕刻、懐に入れた柿の実をポツポツと落としながら町をうろつく。
一方、青森県ではタンコロリンは、子どもの躾に親が言うしつけお化けの名前。また、狐が人を殺す呪文とも。宮城県でも、やはり狐が三年味噌を付けた木を、屋根の上で「タンコロリン」と転がして人の命を奪うと言われる。柳田國男も『妖怪談義』の中で柿の転がる音を現したのでは…と考えている。
この混同は、またしても、御大・水木サンが柿の妖怪をタンコロリンと妖怪本に書いた為、全国に広まってしまったのでは、と言われている…。
ただ、仙台には、ある男が小僧に自分の糞を食わせ、その味が美味しい柿の味だったという話もある。正体は、やはり山奥の柿の木の化身だったと思われる。また、佐々木喜善『聴耳草紙』にも、背の高い真っ赤な柿男が下女に尻をほじって食べさせたところ、柿の味がしたという、類似した尾籠な話が載る。
東北には、柿に限らず、梨・林檎・行者大蒜等の化身の話が多く伝わる。
柿は、古代より日本にあったらしく、縄文・弥生時代の遺跡から種が出土している。現在ある物は、奈良時代に大陸から伝わったが、その頃は渋柿。甘柿の方は、鎌倉時代に突然変異として生まれたという!
スウェーデンの植物学者カール・ベール・ツンベングが寺や寺社に多く植えられていたので、属名を「Diospyros=神の植物」と名付けた。実際、カキはビタミンCやカロチン等栄養が豊富で、「カキが赤くなれば、医者は青くなる」という諺もある。英語の「persimmon=干した果物」は、アメリカン・インディアンのポウハタン語。彼らはアメリカガキを保存食としていた。原産は、東アジアだが、生産国一位の中国に続くのが、意外にもスペイン!
そして句にも書いたが、柿と言えば正岡子規。この句が詠まれた10月26日は〈柿の日〉になっている。ただ、どうも実際に聴いたのは法隆寺でなく東大寺の鐘。また、少し前に夏目漱石の詠んだ「鐘つけば銀杏散るなり建長寺」が元になっているとも。だからといって、子規の句の素晴らしさは揺るがないが。彼は柿が大好物で醂した(アルコールで渋を抜いた)樽柿を、一度に七八個食べていた。漱石の『三四郎』にも、『十六食つた事がある』と書かれている。柿好きを知って、病床に付いてからは皆が見舞いに持参した為腹を壊し、医者から止められた。
俳句の冬の季語にある『木守柿(こもりがき)』は、来年の豊作を祈ったり、鳥たちに残しておく意味で、取らずにおいた柿の実の事である。
柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺正岡子規