188. 僧

仏教僧を思わせる妖怪は多い。

坊主だと、海坊主黒坊主屋敷坊主岩魚坊主のっぺらぼう...。小僧だと、一つ目小僧豆腐小僧波小僧...。入道だと、大入道見越し入道輪入道ひまむし入道頑張り入道...。「入道」は、「仏を目指すもの」「仏門に入った三位以上の者」を指すが、ここでは単に巨体を指す意味である。「坊主」「小僧」も仏教的な意味はない。

では、仏教と繋がりがあるものというと、例えば一眼一足法師。比叡山で修行を怠ける者を睨んで、蹴り出すという。第十九代座主慈忍がモデルとも。また、一つ目小僧一つ目入道の原形だとも考えられる。

白蔵主(はくそうず)は、1381年和泉の少林寺耕雲庵の僧・白蔵主が助けた、三本足の白狐。僧に化け、僧の甥の狩猟好きな男を戒めたという伝説。狂言『釣狐』となった際もこの狐が現れ、動きを教えたという。また、これに出演する役者は、少林寺の境内の逆芽竹を使用した。狐は白蔵主稲荷として祀られている。

蟹坊主は、逆に狂言『蟹山』が起源と言われる。僧に化け問答を仕掛けてくる化け蟹だ。山梨万力村の長源寺の話では、雲水に化けた蟹坊主が問答に答えられない代々の住職を殴り殺したが、旅の僧に退治される。4mもの巨大蟹だったと言う。この寺の山号・蟹沢山や蟹追い坂等の地名に残り、かつては退治された蟹坊主の甲羅もあったらしい。同様の話が、石川珠洲の永禅師、岩手花泉の寛法寺、富山小知の本叡寺、福岡福津の祥雲寺...等、全国各地にある。

『図画百鬼夜行』に描かれている野坊主。絵に描いた青坊主は、静岡や岡山で夕刻に現れるという。これらは僧体だが、得体は知れない。伊予狸の大将犬神刑部や、犬神も法衣姿で描かれる。

平安時代の鉄鼠は頼豪阿闍梨の怨霊。白河院に約束を破られた恨みから、死後、鉄の牙と石の体の八万四千匹の鉄鼠と化し、比叡山を襲った。ある高僧の出現させた大猫により退治される。

『今昔百鬼拾遺』にある古庫裏婆は、七代前の僧の妻で、山寺の庫裏に住み供え物や屍を喰らうという。

熊野には、死んだ僧の髑髏が経を唱えた話がある。

仏具の付喪神も多く、木魚だるま払子守襟立衣天狗の首領格鞍馬山僧正坊の襟立の変化天狗に、「坊」の字が付くのは、増上慢のまま死した高僧の生まれ変わりだからか。あの鼻も。

こうしてみると、寺という場所は死にも、神仏に最も近い、人間界との境界。そこに惹かれて、戒律を破った者も、辿り着けなかった者も、獣さえも寄ってくるのだろう。

解夏となり畜生なりに悟りをり風来松