346. グロブスター

1808年スコットランド・ストロンゼー島に、巨大な生物の死骸らしきものが打ち上げられた。長さ16.8m、3対の肢らしきもの、小さな頭と目、滑らかな皮膚、銀色の鬣。エディンバラの〈ウェルネリアン自然史協会〉が解剖したが、正体は不明とされた。

1896年アメリカ・フロリダ・セントオーガスティン。巨大なタコのような死骸が漂着。長さ6m、重さ推定5t、4本の腕のようなもの、皮膚は硬く粘稠度のゴム状。写真に撮影され、調査が行われた。多くの人が見物に訪れたが、その後の行方は不明。

1906年オーストラリア・タスマニア島・インタビュー川。6×5.5m、重さ5tの肉塊が発見される。6本の腕らしきもの、目も口も無く、牙のような突起。硬く白い剛毛で覆われていた。

1962年にこれらは、動物学者アイヴァン・T・サンダーソンによって、グロブスター=グロテスク・ブロブ・モンスターと名付けられた。

上記の3例以外にも、絵にも描いたような様々なグロブスターがこれ迄に確認されていて、それらは幾つかのタイプに分類できる。

2006年ロシアの7mのもの(政府関係者により回収)、2013年のスペイン・アンダルシアの4mで頭部に2本の角のあるものは、〈竜タイプ〉。2017年インドネシア・セラム島の15mの肉塊は〈ブロブタイプ〉。2016メキシコ・アカプルコ、2018年ロシア・カムチャツカ、2020年フィリピン・カグディアナオのそれは、〈白い毛むくじゃらタイプ〉。2008年アメリカ・モントークのモントーク・モンスター、2012年同国コネチカットのミルフォード・モンスター、同年同国サンディエゴのものはイヌやブタを思わせる(チュパカブラタイプ)。このタイプは、生物実験で生み出されたものではと言われ、ニューヨーク・プラムアイランドにかつて存在したという生物兵器開発プラントが出処との説がある。2007年ギニアのものは、長さ10m、表皮がひび割れ、4本の肢か尾のようなものが。また。同年中国・大連湾のそれは、長さ3m、巨大な嘴のようなものがあり、まるで翼竜の頭部のようにも見える。これらは、分類不可能。

日本でも、2013年奄美大島・安木屋場、2021年千葉・銚子の君ヶ浜等での目撃例がある。

さて、グロブスターの正体だが、前回のニューネッシー同様にサメ、大型のイカ・タコ、深海魚等の腐乱死体。そして、最も有力視されるのが、クジラの死体から放出されたものという説。クジラの死骸から剥離し、繊維質が露出、脂肪が溶け出した…。確かに、グロブスターの多くは、毛に覆われた繊維質の白い皮膚で、大半はコラーゲンと言う構成だ。実は2例目に挙げた、セントオーガスティンのグロブスターは、当時頭足類の権威とされた〈イェール大〉のアディソン・ヴェリルがタコと断定し、〈オクトパス・ギガンテウス〉と名付けられた。その後も残された標本で何度が鑑定が行われ、タコ説は揺るがなかったのだか、なんと1995年になって、間違いなくクジラだと判明した! マリンスノーの集合体という説、また近年発見が相次ぐマーメイドグロブスターにはウミウシ説がある。

さて、最後に…。『今昔物語集第三十一巻』(様々な奇異・怪異譚の載る最終巻)にこんな話がある。藤原信道が常陸守であった時、五丈(約15m)の巨人の死体が打ち上げられた。首・右手・右足は失われており、体つきや肌の感じは女のように思われた。人々は、地獄阿修羅道に住む阿修羅女だろうと言った。やがて死体は腐臭を放ち始めたというので、遺棄されたのだろう。この事実自体も隠蔽されたが、何処からか噂は広っていったと言う。

春の渚に打ち上ぐる何か見知らぬ風来松