201. 蝙蝠

世界に約1000種が存在する哺乳網翼手目。

名前は、古称「かはほり」から転じたもので、語源としては、「皮張り」「川守り」「蚊屠り」...等の説がある。「蚊喰鳥」とも言われ、糞に多くの蚊の目玉が残る為、中国では四川料理の高級スープにしたり、〈夜明砂〉なる目に効く漢方にされたりというが、どうも実在はしないらしい。漢字の「蝙蝠」も、勿論中国からだが、発音が「偏福」に似ることから幸運の象徴とされ、また百年生きた鼠が蝙蝠になるとの言い伝えから、長寿のシンボルとも。「天鼠」「飛鼠」の名でも呼ばれる。

キューバのタノイ族でも、コウモリが健康・富・家の団結をもたらすとされ、有名なラム酒〈バカルディ〉のロゴマークに使用されている。

日本でも、〈太陽石油〉、カステラの〈本家福砂屋〉の商標に。福山阿部家の家紋にも使用され福山市はこの縁で、『バットマン』の舞台〈ゴッサムシティ〉と姉妹都市協定を結んだ! また、沖縄八重山の人達は、自分達を蝙蝠の子孫だと考えている。アイヌにも、カッパカムイなるコウモリの神様がいる。 七代目團十郎は蝙蝠柄を好んでたというし、室生犀星も蝙蝠にかなりの執着があったようで、萩原朔太郎が文学者を動物に例えた文章でも、蝙蝠とされている。(ちなみに芥川龍之介は狐、谷崎潤一郎は豹...)

一方、西洋においては、悪魔の翼的な負のイメージが大きい。『バットマン』の主人公ブルース・ウェインも幼少期にコウモリの巣に落ちた恐怖からあの姿となった。『聖書』でも汚れた動物とされているし、『ローマ神話』では、復讐の女神フリアイがコウモリの翼を生やしている。『ギリシャ神話』でも、オルコメノス王の娘ミニュアデスが、ディオニューソスに不敬であった為、コウモリの姿に変えられた。ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』で、更に悪い印象が定着してしまったが、実際吸血コウモリは約1000種のうち3種、哺乳類の血を吸うものはチスイコウモリのみである!

さて、妖怪では野衾が知られる。火を食べ猫や人の血を吸うという。どちらかといえば、ムササビや、モモンガの方が近い印象があるが、別名の飛倉はコウモリっぽい。年月を経た蝙蝠の変化とされ、さらに老いると百々爺山地乳となる。野鉄砲は、蝙蝠のようなものを吐き視界を奪う。

UMAも多い。ニュージャージーデビルを筆頭に、レーニア山のバッツカッチ、メキシコのマンバット、セネガルの放射能を帯びたジーナフォイロ、ロシアのウプイリは美男美女に化ける。チリのタギュア・タギュア・ラグーンは、夜な夜な湖から現れ家畜を襲った。1784年生け捕りにされたが、体長18m、頭に角、牙、コウモリの翼と二本の尾という姿だったという。インドネシア・ジャワ島のアフールも、1925年より目撃される赤い翼を持つ巨大な猿のような外見。その名の由来の美しい声で鳴く。

そんな、さんざな言われようのコウモリだが、コロナ禍においても、中国武漢での感染源とされ、エボラ出血熱との関連も言われ、狂犬病の宿主でもある。一方、2024年3月『ネイチャー』に、ウィルスや、癌の耐性を持つと発表された。どうやら『バットマン』よろしく吉凶の狭間の存在らしい。

蝙蝠のどちらでもなく立ち尽くす風来松