90. 大嶽丸

日本三大妖怪の一。伊勢から近江の鈴鹿山を根城とした鬼神。神通力を持ち、風雨雷を操り、火の雨も降らせる。分身、変身、飛行、巨大化もできる。

室町時代の御伽草子『田村』・『鈴鹿』、能、浄瑠璃浮世絵にも描かれた。おおよその話は、坂上田村麻呂=三代目田村丸俊宗と、鈴鹿御前=烏帽子御前によって、大嶽丸が討ち取られるというもの。元は、810年の〈薬子の変〉と考えられる。

田村麻呂自体、初代は大蛇と契り子をなしたという。さて、三代目俊宗は三万の軍勢をもって大嶽丸を討伐しようとするのだが、苦戦を強いられる。ここで手を貸したのが鈴鹿御前。天下を取った天女とも、女盗賊とも、魔王の娘とも言われる。若く美しい姿で、かつ神通力も持ち、剣の名手でもある。そんな彼女は、実は大嶽丸の想い人でもあった! その気持ちを利用され鈴鹿御前に、阿修羅王から贈られた一振りで千人の首を落とすという三明の剣の内、二本(大通連・小通連)を取り上げられてしまう...! それが命取りとなり、憐れ大嶽丸は田村麻呂の騒速の剣にて討ち取られてしまうのであった...。その後、一度は蘇り陸奥国霧島にて再臨するのだが、再び田村麻呂に討ち取られてしまう。その首は最期まで敵の兜に喰らいついたという。その子高丸も千人力の強者だったが、討伐された。

田村麻呂の方は、鈴鹿御前と結婚し、小りんなる娘も生まれ、幸せに暮らしましたとさ...って! なんだか大嶽丸が気の毒すぎる...。権力側に虐げられた妖怪感あり。

滋賀県甲賀市の〈田村神社〉には坂上田村麻呂が祀られている。また、騒速の剣は兵庫県加東市〈清水寺〉に奉納された後、重要文化財として〈東京国立博物館〉に。滋賀県東近江市には大嶽丸が埋葬されたという〈善照寺〉がある。一説には、その首は〈宇治の宝蔵〉にあるとも。

ちなみに『おじゃる丸』は、坂上田村麻呂がモデル! 本名も坂の上のおじゃる丸という。ただ、彼は鬼退治することもなく、今の世に「まったり」と言う言葉を流行らせた。

鬼天女英雄鈴鹿の春の闇風来松