78. 鏡

最古の鏡は、トルコの〈チュルタル・ヒュユク遺跡〉から出土した黒曜石の石鏡である。金属鏡となると、2800年前のエジプト第六王朝の物。銅鏡は1600年前の中国・殷の〈葉脈文鏡〉。日本最古は、やはり中国から伝来したと思われる〈方格規矩四神鏡〉。卑弥呼が魏に使いを送った時代の物。

中国の伝説では、女媧の氏族膜母が、石板鏡を発明したとする。
 
『封神演義』では、太公望照魔鏡を用いて妲己の正体を暴く。また、雲中子も、同じような照妖鏡という宝貝を持つ。これを元に、鳥山石燕は『百器徒然袋』に雲外鏡を描いた。

上記の例ように、古今東西、鏡には神聖で神力が宿るとされてきた。神社に神体として置かれていて、神鏡と呼ばれる。やはり、太陽を反射する事から天照大神の象徴とされる。『日本書紀』でも、本人が自分の御霊として拝するようにと言ったとある。

神鏡といえば、三種の神器八咫鏡。『古事記』には、高天原で八百万の神が天安の河原で作ったと書かれている。現在、〈伊勢神宮〉に奉納されている。

前漢の『西京雑記』にも、小さな鏡は妖怪を写すとある。

創作では、黙阿弥の『しらぬひ譚』で宝物の名鏡が蜘蛛の妖術から主人公を守り、滝沢馬琴の『椿説弓張月』でも鏡が助けとなる。『シンデレラ』の魔法の鏡、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』。(絵に描いたのがこの表紙で、和田誠)近年では辻村深月の『かがみの孤城』、『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ『岸辺露伴は動かない』のエピソード『ホットサマーマーサ』でも、御神木の中にある鏡が重要なアイテムとして登場した。

合わせ鏡をすると、未来や過去が見えたり、悪魔が出てくる…といった都市伝説も昔からある。水木サンは、旧暦八月の十五夜の満月の月明かりの下、水晶の盆に水を張りその水で鏡面に怪物を描くと、その中に棲みつくと書いている。幽霊座敷童吸血鬼は、鏡に映らないというのもよく聞く。

さて、最後になるが、「鏡はなぜ上下逆さまには映らないのか」という問題は、プラトンも研究したという永遠の謎。定説はいくつかあるのだが、分かったような分からないような? 鏡の向こうの自分も煙に巻かれたような顔だ。

鏡の中の上下左右も夜長かな風来松