362. 相撲

土俵の上で力士が組み合い戦う、日本古来の神事。また、それを起源とする武芸・武道。語源は、古語の「すまひ」。意味は、「争う」・「抗う」・「素舞う」等と言われる。

起源は『古事記』の葦原中津国平定の段の、建御雷タケミカヅチと、建御名方タケミナカタの力競べ。『日本書紀』にも野見宿禰ノミノスクネ当麻蹴速タエマクエハヤの、すまひが載る。奈良時代から平安時代にかけては七夕の宮中行事として行われ、江戸時代になると大名お抱え力士も誕生。興行も始まり、谷風、小野川、そして描いた雷電為右衛門ら、人気力士も登場した。特に雷電は197cm169kgの巨体で、254勝10敗! 対戦相手に死人が出た為、張り手・かんぬき・鉄砲を禁じられたともいう。

興行となってからも、神事の色は濃く残る。土俵を清める塩。柏手。句にも詠んだ醜足(しこ)は悪霊荒魂を踏み鎮める。また、初日に行う〈土俵祭〉では、手力男命タヂカラオ(岩戸に隠れた天照大神アマテラスを引っ張り出した神)、建御雷神野見宿禰を祀る。そして、行司は口外しない事となっている祝詞を呟く。土俵の穴に神饌(干柿・搗栗・するめ・昆布)を埋めて酒をかける。これで土俵には、千秋楽の〈神送りの儀式〉まで、神が宿る。因みに、なにかと問題に上がる「女人禁制」だが、古くから女相撲も盛んに行われている。

相撲に似た競技は各地にあり、沖縄の〈シマ〉、モンゴルの〈ブフ〉、中国の〈シュアイジャオ〉、朝鮮の〈シムル〉...等。

妖怪にも相撲好きは多い。良く知られるのが、河童。とくに九州に話が多く残る。身体がヌルヌルしているし、負けると尻子玉を抜かれてしまうが、如何せん弱点の頭の上の皿が丸見えなので怖くはない...。狐に化かされて、一晩中、何かと相撲を取らされたという話も多い。八王子の剛の者・新発地を破った、川越の民部稲荷は、相撲稲荷とも言われ祀られている。他にも、山梨は天狗。滋賀の化け火も、二人の相撲を取る人の形となる。挑んだ田舎相撲の実力者が投げ飛ばされたという。昔話では、鼠もとるし、何より金太郎を忘れてはならない。

筆者は幼い頃、近所の〈井手神社〉で一人角力を見た記憶がある。愛媛県では、大三島の〈大山祇神社〉が有名。稲の霊と取り組み人間が負けると豊作となるので、毎年負ける。他にも西条市野村の〈乙亥大相撲〉も知られる。1852年の大火での火鎮祈願として始まった。実は愛媛県の小学校には土俵があるところが多い。松山市に至っては、全ての小学校にあるらしい! 昔はそんな事なかったし、特に相撲が盛んなわけでもないのに、不思議である...。そういえば、愛媛県の海に出る海坊主も、やはり相撲が好きらしい!?

雷電の醜足ひと踏みで梅雨明ける風来松