アイルランド・マン島のLeannan Sidhe(恋人の精霊)。芸術的霊感を与える代償に、愛と生気と血を吸い取る。美しい女の姿だと言うが、彼女が気に入った男にしか見る事はできない。〈ケルト文学〉の作家達が短命であった理由とも言われる。
オスカー・ワイルドの母親ワイルド夫人は、リャナン・シーはバン・シーの対となる存在だと書いている。また、女性でありながらリャナン・シーにより力を得た詩人エーグインの言葉が、マンスター王を勝利に導いたという逸話も記している。
イエイツもリャナン・シーの詩を残している。『彼女は男の愛を探し求める。もし拒めば奴隷のようにかしずくが、受け入れれば彼女のものとなり逃れられない。ほとんどの詩人は彼女の恋人。彼女は霊感を与えるゲールの詩神ミューズなのである。彼女は恋人たちをこの世から連れ去って行く。』
ミューズはムーサとも言い、『ギリシャ神話』において、技芸・文学・学術・音楽・舞踏等を司る女神達。芸術の神・アポロンのもとパルナッソス山に棲む。セイレーンとの歌比べや、マルシュアースとの音楽合戦の審判をしたりもする。
『北欧神話』にも詩の神ブラギがいるが、オーディンと同一とも。
リャナン・シーに話を戻すと、マン島のそれは、アイルランドのものより悪意が強いという。やはり美女ではあるが、黄色のシルクローブをまとい、井戸や湖に現れる。〈フィッチャー家〉の守護神となり、彼らに妖精杯を与えた。これは元々、あの聖オーラブの聖堂にあり、ノルウェー王マグヌスに持ち出した〈平和の杯〉と同一の物とも言われる。
さて、もし目の前にリャナン・シーが現れたら、どうしよう...。絵や詩の才能の見返りに、命を差し出せるか? ノン! たとえ、上手く絵や詩がかけなくとも、1日でも長くこの世界を見ていたいし、未知の何かをまだまだ見たい。リャナン・シーさん、ごめんなさい!
詩神への代償として春の日日風来松