このところ、日常茶飯事のように〈フェイク画像〉やら、〈フェイクニュース〉やらを見聞きする。映像なんかは、あまりに出来が良すぎてて、真偽の区別がつかない…。ただ、これは何も今に始まったことではなく、古今東西多くのフェイクが、存在してきた。今回取り上げる、偽書は、著者・年代・制作過程等が虚偽とされている文書である。
ここから紹介する、日本の代表的な偽書は古史古伝または、超古代文書等と言われ、『古事記』・『日本書紀』等の主要な史料と、著しく異なる歴史の書かれた文献である。
『竹内文書』は、新興宗教〈天津教〉の竹内巨麿により昭和10年に公開された。神代(かみよ)文字や、文字の刻まれた石・鉄剣も含まれる。日本の古代王朝のみならず、キリスト・モーセ・釈迦、桃太郎、古代ピラミッド、架空の金属ヒヒイロカネ…等、盛りだくさんである…。あの狩野亨吉(夏目漱石の親友で、『吾輩は猫である』の苦沙弥先生のモデル)が偽書と鑑定している。〈天津教〉は、1950年〈GHQ〉により解散されたが、後の多くの新興宗教に影響を与えた。
『ホツマツタヱ』も神代文字のヲシテを使用。五七調の長歌体。江戸時代に書かれ2書だけだったが、1992年滋賀県高島市の〈日吉神社〉から、40巻が発見された! 肯定派は、『記紀』の原書と言い、否定派は江戸時代以降に作られた偽書だと言う。
『先代旧事(くじ)本紀』は、平安時代から江戸時代まで、『記紀』と並び我が国最古の史書とされた。天地開闢から推古天皇までの内容で、全十巻。聖徳太子と蘇我馬子が編纂と序文にある。江戸時代になり、水戸光圀・本居宣長等が偽書とした。物部氏が書いたものとも言われる。
徳川家の祖・清和源氏から徳川家康までの七百年が描かれているのが、『三河後風土記』。作者も、成立年代もはっきりせず、徳川家に都合の良すぎる内容の為、偽書説がある。
古代出雲王朝について書かれているのが、『九鬼(くかみ)文書』。九鬼家の遠祖天児屋根命(アメノコヤネノミコト)(邇邇芸命と共に高千穂に降臨)の時代に記録され、神代文字を藤原不比等が訳したとする。
古代東北の歴史書とする『東日流(つがる)外三郡誌』は、かなり信憑性が低い。1970年に青森県北津軽の和田喜八郎宅の天井裏から落ちてきて、発見されたという。文書の中に江戸時代以降に作られた単語が多出したり、東北に伝わる謎の神である、荒覇吐(アラハバキ)を、〈遮光器土偶〉と結びつけたりしている。本人も、ビルマ国王の影武者だったり、皇宮警察だった…という、かなり怪しすぎる経歴。ただ、1999年、この世を去るまで発見を続けた…!
日本最大の偽書と言われるのが、椿井文書。山城国相楽椿井村の椿井正隆により制作・販売された物をはじめ、複数の書物の総称。内容は、神社仏閣の縁起・由来・境内の地図で、偽書とも言いきれず、突拍子もない事が書かれているわけでもない…。
海外においても偽書の類は幾らでもある。
キリスト教では、『旧約聖書』の正典・外典に含まれない物は、全て『偽典』とする。『ヨベル書』・『エノク書』等が知られ、〈グノーシス主義〉の物は焚書されたという。また、『シオン賢者の議定書』は、〈ナチス〉が、反ユダヤ感情を煽るために拡散した。
朝鮮の新興宗教の著者の書いた予言書『格庵遺録(ギョガムヨロク)』。フランス人ジョルジュ・サルマナザールのデタラメ本『台湾誌』。『マリー・アントワネットの手紙』や、『ショパンのラヴレター』なんて偽書もある!
ラヴレターといえば、かつて大分県臼杵の〈ふしみや〉なる茶房で、すごい量の石川啄木の恋文が展示されているのを見たことがある。それ自体は本物なのだが、送った相手が実は祇園芸者を騙る男だったという…! 哀れ、啄木…。
偽書ではないが、少し前に〈江戸しぐさ〉というのが話題になった。その名の通り、江戸の人々が築き上げた行動哲学(例えば、傘を外側に傾けてすれ違う)で、一時安倍政権が、学校の道徳本にまで広く採用。だが、どうもこれ作者の芝三光の創作のようで、田中優子や、偽書専門家の原田実も、根拠のない空想だとしている。江戸っ子が虐殺されたとか、〈江戸しぐさ〉の秘密結社があるとか、確かにトンデモ話だった…。阿倍家は前述の『東日流外三郡誌』を見て、自分達のルーツが青森と信じて墓参りにも出向いている…。
しかし、偽書を作った目的が何であれ、作っている時の高揚感は、容易に想像し得る。かつて、J・R・R・トールキンが『指輪物語』の世界を構築し、エルフ語まで作ったように、これは神の所業だ。それ故に、どの偽書も細部に渡る内容であり、膨大な量、なのだろう。世界の創造は暴走し、止めることは出来なかったのだ…。そして、それらの偽書の中に、為政者や時の権力者によって、消された真実もまた、少なからず存在するだのだろう…。
万愚節図書館にそっと隠す偽書風来松