174. 梟

よく、飲み屋なんかの暖簾にフクロウの絵が描いてたり、幸せのお守りぽい物も見かける気がする…。「不苦労」とか「福来郎」とかの当て字、夜目が効く事から「見通しが明るい」、首が回ることから(実際270°くらい!)、商売繁盛…等など何かと幸運の象徴にされている。室町時代には、天眼力神通力を持ち邪気を祓うとされ、江戸時代にも、疱瘡を避けるとも言われた。アイヌでも、シマフクロウがの鳥、チカプカムイとされ、猟で熊の場所を鳴いて知らせる豊穣の神とされた。現在でも、福岡の〈宮地神社嶽〉には、正直者が梟マモの鳴き声に導かれ金の玉を見つけたという縁起が。栃木・茨城の境にある〈鷲子山上神社〉には、大神の使いだという梟天日鷲命が祀られている。他にも、全国に十数の梟を祀る寺社がある。

かと思えば、中国では「母喰鳥」(日本で冬の季語にもなっている!)、「不孝鳥」と呼ばれ、冬至・夏至の日には磔にされていたらしい…!(これが漢字の「梟」となった)「梟雄」や、「梟首」(=獄門)等も、決していい意味ではない…。日蓮もこの「母食鳥」について、なぜかしつこく書いているし、『源氏物語』でも気味悪いものとして、何度も登場…。(もちろん、フクロウは実際に母を食べたりはしない) 

『山海經』に載るギョウは、四つ目の人面梟で、旱魃をもたらすという。日本でも、東北のたたりもっけは、口減らしの為殺された子が憑いた梟で、赤子のように泣くという。

では、海外では…というと、やはり同じように善くも悪くも考えられている。古代ギリシャでは、知恵・学芸・農業の神とし、アテネがフクロウを共としている。同じように、古代ローマでも、知恵・芸術・工芸・戦術の女神ミネルヴァのお供に。「ミネルヴァのフクロウは夕暮れに飛ぶ」という言葉も知られる。インドの幸運の女神ラクシュミーもフクロウに乗る。これらの事から、ヨーロッパでは、フクロウは「森の賢者」とも呼ばれる。実際は、カラス(いくつかの民話でフクロウと仲が悪い)の方が、かなり賢い。ただ、視覚・聴覚・運動能力は非常に高い。羽ばたきの音を消す外側の風切り羽には、細かいギザギザがあり、〈新幹線500系〉のパンタグラフに利用されている。

一方でキリスト教では、フクロウは不服従の三姉妹の一人とされ、神を拒み、決して太陽を見られないとする。『旧約聖書』でも、食べる事を禁じられた穢れた鳥の一とされ、暗闇・死・夜の象徴。ストラスという悪魔は、王冠を戴く足の長いフクロウの姿。26軍団を指揮する地獄の大君主だが、召喚した者に、天文学・薬草学・宝石に関する知識を授ける。中国でも、死後の世界への守護の役。南米でも、死者の魂とされ、アステカでは、地獄の神で、夜・雨・嵐の化身とされた。ホピ族でも、不潔な生き物という位置づけ。

アメリカン・インディアンには、フクロウに関する謂れが多い。アパッチ族「死が迫ると、フクロウの夢を見る」。ナバホ族「死んだ人の魂はフクロウの姿になる」。チェロキー族「フクロウの羽根で目を洗うと朝まで起きていられる」。
 
インドでも、フクロウの卵を食べると、夜目が利くようになると言われる。イギリスでは、アルコール中毒が治ると言う! フランス語の「セ・シェット=いいね」は直訳すると「フクロウだ!」。一方、ヒンディー語でフクロウの意の「ウッルー」は「おバカさん」。

こんなに、世界にフクロウに関する言葉があるのに、実は日本には不思議と少ない。

UMAではフクロウ男。イギリス・コーンウォールの、モナウンで1970年代中盤に目撃された。頭部は尖った耳、赤い目、爪は大きく鋏のよう。体、もしくは足は人間。目撃者は少年少女のみ。よく似ているのが、バハマ・アンドロス島のチックチャーニー。容姿はフクロウ頭に人身。ただ、こちらは優しく接する者には幸運をもたらすという。前者はワシミミズク、後者は全滅したオルニメガロニクスオテロイとも言われる。

絵に描いたのは、特撮の名匠ハリー・ハウゼンの名作『タイタンの戦い』に登場した、機械仕掛けのフクロウブーボーアテネが自分が飼っていたフクロウを手放したくない為、代わりとして、炎と鍛冶の神ヘーパイストスに作らせた。(パンドラの箱もこの人!)一見、ポンコツロボ風のブーボーだったが、クライマックスで大活躍して、クラーケン退治に一役買った!

ふくろふに真紅の手毬つかれをり加藤楸邨