168. ユニコーン

一角獣。元はギリシャ語モノケロース。額の中央に1本の角のある馬。その角は強靭で、どんな物をも貫く。また、あらゆる病を治す力も持つ。色は様々。尾はライオン、顎髭は牡山羊。目は紺色。翼を持つものも! 山のような大きさの事も、貴婦人の膝に乗るほど小さな事もある。非常に勇猛で気位も高い。唯一、処女には弱い。

最古の記述は、紀元前4世紀ギリシャの歴史家・医師ツェシアスの書いたもので、『インド諸王国に極めて足の速い野生の驢馬がいる。白い毛、紫の頭、青い目、額の真ん中に生える角は付根は白、先端は赤、中間は黒…』とある。また、その角の解毒作用や、肉はひどく苦く食べられないとも。彼はペルシャ王の下で何年か医師として仕えるが、インドへは行ったことはなかった。

その約百年後、シリア王の特使ガステネスは、実際インドに旅し、ユニコーンについての記録を残している。ここでは、その角に螺旋の筋があったと書かれている。

プリニウスも『最も獰猛。胴は馬、頭は牡鹿、足は象、尾は猪、黒い一本の角が額の中心より突き出している。生け捕りは不可能。』と記している。大ポンペイウスはローマに連れていき、見世物にしたという。

『旧約聖書』にもユニコーンの名は多く登場する。ノアの箱舟の段では、他の動物を見境無く突き、乗るのを拒み、海へ放り出されている…! 民話では、自力で泳いだが小鳥が角にとまり水没し、絶滅したという…。キリスト教では、受胎告知やキリストの受難の象徴ともされ、ユニコーンと処女をイエス聖母マリアになぞらえた。一方、7つの大罪では、〈憤怒〉の象徴にも。
 
15世紀、フランスのパウルス3世は金貨12000枚で、その角を入手したという。

日本においても、『和漢三才図会』に記されている。狛犬起源のともされる。

中国では、『山海經』に獬豸が載り、この角を折ったものは死ぬという。また麒麟も一角。台湾では、祥獣とされる。

アラビアのピラスピ、インドネシアのカンフールも、1本角。

これらの一角獣の元は、サイやシカ科の動物だと考えられる。また、海に棲むイッカク(ウニコール)も、19世紀までは伝説とされ、イヌイットたちは海に引きずり込まれた女が、白イルカとなり彼女が手にしていた銛がその額で角となったとする。

前述したように、ユニコーンの角は治癒や解毒の力があるとされた為、イッカクやサイ等の角が、削って薬とされた。前述のウニコールの薬はペスト流行時には飛ぶように売れたという。また、14〜18世紀のフランス宮廷では毒の検証に使用された。北欧民族が古くから用いた〈角杯〉も、同様の理由で好んで使われ、角で作られたナイフは毒が近づくと汗を掻くと言われた。

その姿は、世界中の物語にも描かれ、『グリム童話』、スペンサーの『神仙女王』では獅子との対決が描かれた。村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』にも。因みに奥田民生の〈ユニコーン〉の由来は、〈Tレックス〉のアルバムから。

イメージは、フランスのフロベールの描いた、『聖アントワーヌの誘惑』において、一般化された。ラファエロの『一角獣を抱く貴婦人』も有名。

描いたのは、荒木飛呂彦『徐倫GUCCIで飛ぶ』より。

淑気満つユニコーンの角睫毛にも風来松