猟人は、それを撃つと猟を辞めなければならない一発の弾丸、念仏弾(地域によりそれぞれの名前がある)を持つという。
愛媛県温泉郡重信町上林の鉄砲名人・半助は、八幡大菩薩の加護のある命弾丸で、山爺・山婆を仕留めた。高知県香美市韮生郷久保でも、梵字を刻んだ弾丸で、一つ目の3mの巨獣が退治された。同県佐川では、足軽・篠原助蔵が伊勢黒金弾で、獣を喰う大鹿を、山郷都積で六郎右衛門が白毛で二股の尾の大猪を、やはり伊勢黒金弾で倒した。香美市物部村の猟師サブノ助は、名の異なる七つの鉄より作られた最強のむくのたまで、八つの頭の大蛇八頬王(やつらお)を討った。
以上のように、弾丸の話は多く伝わるが、銃そのものについては、ほとんど見当たらない。数少ない一つが、すりつぶし源斎である。土佐の鉄砲鍛冶二代目源斎の最後の作なのだが、彼が仏心に欠けていたせいか、この銃は不吉な運命を辿る。また、刻まれた銘は、いくらヤスリで潰そうとしても微かに残る事から、その名で呼ばれた。大正の頃、充平なる男が母親の財布よりくすねた金でこれを手に入れ、見境なく打ちまくった為、村を追い出された。その後、暫く銃は行方不明だったが、次にこれを手にした猟師の浅次は、危うく仲間を撃ち殺しそうになる。その次の持ち主猟師の勘八は、暴れ銃だという噂も気にしなかったが、暴発により命を落とした。その後、すりつぶし源斎の行方は杳として知れない…。
海外にこそ、いわく付きの銃の話がありそうなものだが、やはり見つけられなかった。狼男や吸血鬼退治の銀の弾というくらいか。2001年に、ブラッド・ピットとジュリア・ロバーツが共演した『ザ・メキシカン』は世界一美しいが、持つ者の愛を引き裂くという伝説の銃の話だった。創作だと、『銀河鉄道999』に登場する、宇宙に4丁しかないという星野鉄郎や、キャプテンハーロックの持つ戦士の銃。『風の谷のナウシカ』のナウシカの持つ長銃は、100丁限定でモデル化され、36万円程で売られた(シリアルナンバー1は、宮崎駿が、2は鈴木敏夫が、3は香取慎吾が持っている)。『天空の城ラピュタ』のムスカが持つのは、第一次世界大戦での英国の主力だった〈エンフィールド・リボルバーNo.2〉。筆者の好きな『スター・ウォーズ』では、ハン・ソロがDL-44重ブラスター・ピストルを、相棒のチューバッカはボウキャスター、彼らの宿敵ボバ・フェットがEE3-ブラスターカービンを使う。スピンオフアニメ『反乱者たち』のトリッキーな主人公エズラ・ブリッジャーはなんと、ライトセーバーとブラスターを組み合わせた武器を作った!銃と言えば、『ルパン三世』の次元大介。彼の相棒は〈スミス&ウェッソンM19コンバットマグナム〉。ルパン三世はご存知〈ワルサーP38〉。
筆者は拳銃使いキャラも好きで、『ジョジョの奇妙な冒険』でも、ホル・ホース、ミスタ、リンゴー・ロードアゲイン、ボビー・ジーンがお気に入り。スティーブン・キングの集大成的大長編『ダーク・タワー』シリーズの主人公、最後のガンスリンガーであるローランド・デスチェインも格好良かった! 彼のモデルはクリント・イーストウッドらしい(『ダーティハリー』のハリー・キャラハンは〈44マグナム〉)。この作品自体のモデルは、イギリスの詩人ロバート・ブラウンの『童子ローランド暗黒の塔に至る』。彼は、夏目漱石や芥川龍之介にも愛された詩人である。
現実の世界では、西部劇で有名なダッジ・シティ保安官ワイアット・アープの〈コルト・バントライン・スペシャル〉。ただ、実はこれ彼の伝記を書いたスチュワート・レイクの創作で、実際使ったのは〈スミス&ウェッソンM1869〉らしい。坂本龍馬が高杉晋作から貰ったのも、〈スミス&ウェッソンNo.2〉。寺田屋事件で紛失するも、また同じ物を手に入れて、おりょうさんとの新婚旅行で鳥を撃って遊んでいる。遺品の中にあったらしいが、その後行方不明。話は飛ぶが、ロシアの宇宙飛行士は、地球への帰還後のサバイバル用として、〈TP82〉なるマチェテ付きの銃を今も持って行っている。
絵に描いたのは、〈村田銃〉。薩摩藩の村田経芳が、フランスの〈グラース銃〉を元に開発した初の国産小銃だ。戦後、払い下げられ猟銃として使用された。これまで、さんざ嬉々として銃についても書き連ねたにもかかわらず、やはり兵器という人殺しの道具は、描いていて気持ちの良いものではないと感じた。一方で、銃にしろ、刀にしろ、あるいは戦車・戦闘機・戦艦…はたまた、SFやマンガに登場するロボット兵器…そんな物にどうしても惹かれてしまうというのは、何なのだろう。人間としての本能なのか…。軍事マニアとして知られる宮崎駿も「僕は政治的には再軍備も反対だったし、未だにPKOにも反対な人間なんですけれど、軍事的なことについては一貫して興味を持っている人間なんですね。」と発言している。宮崎の『宮崎駿の雑想ノート』には、古今東西の兵器と人の織りなす狂気の情熱が描かれている。ここから『紅の豚』や、『風立ちぬ』も生まれた。
筆者の宝箱の中には、今もなお、小さな銀玉鉄砲一丁と、父親が自衛隊だか警察官だかの友達から貰った薬莢が一つ眠っている…。
猟人の最後の弾丸を持ちて日々風来松