『之を語りて平地人を戦慄せしめよ』
1910年柳田國男が世に出した、岩手県遠野の説話集。土淵村出身の民話蒐集家・佐々木喜善が語った伝承を、筆記・編集した物。119話であったのを、1935年に追加し299話。日本の民俗学の先駆けとも言われる。
大ヒットし、島崎藤村・田山花袋・泉鏡花らが積極的に書評を書いたが、前者2人は批判的。19歳の若き芥川龍之介は面白がったという。
舞台となる遠野は、伝説では太古の昔は一円の湖だったという。また、地名の語源もアイヌ語のTO(湖)+NUP(丘原)とも。
遠野を囲む、早地峰・六角牛(ろっこうし)・石神の三山には、若い3人の女神が棲む。戦前までは女人禁制で、破った巫女が石になったという。また、それらの山には、山人がいて、笛吹峠などは山男・山女が出るとと言われ人々は通る事を避けた。他にも山神・ヤマハハ、天狗森には相撲好きな天狗がいる。これらは、積極的に危害を加えるものではないが、怒らせたりすると命に関わる事も。会うだけで、毒気に当てられるものもいる。また、山中にはマヨイガや桃源郷のような場所もあり、歌が聞こえてきたり、満開の花が咲いていたり、高価な物があったりするが、大抵は辿り着けない。山の獣が年を経て成る経立も多く、狼の成った御犬の経立(ふったち)は群れをなし、猿の経立は里に降り女を攫うという。鱈や鶏といった変わり種も!
雪深い土地なので、雪女や雪童も、冬の満月の晩や小正月に現れるという。
川や沼には河童がいて、馬を引きずり込む等の悪さをする。色は赤。河童淵に多い。
家々には座敷童がいて、これのいる家は富み、離れると没落するという。また、集落に一つの〈大同〉と呼ばれる家にはオクナイサマが祀られる。他にも、かつて馬と契り天に昇ったというオシラサマも、養蚕の神として広く信仰されている。祭りの時に登場する獅子頭ゴンゲンサマは火伏せの神。
神隠しの話も多く、梨の木の下に草履を残したまま少女の頃に消え、30年後に一度だけ親戚の前に姿を現した寒戸の婆が知られる。
妖怪話の他に、母殺しや、デンデラ野、正月の風習や、鳥の話等も載る。
遠野の隣が宮沢賢治の花巻で、風の又三郎、雪狼(ゆきおいの)、雪婆んご、雪童子(わらす)、そして、あの山猫達も!
水木サンも漫画化したし、最近では鯨庭も。
コレデドンドハレ
枯野さえ物語りをる遠野かな風来松