1959年。アルゼンチン・バイアブランカ。ホテルをチェックアウトしたビジネスマンは、車のエンジンをかけた直後、深い霧に包まれ、気がつくと見知らぬ路上に立っていた。通りかかったトラックを止めて、「バイアブランカに連れて行って欲しい」と頼むと、「ここから1000km離れている」と言われる! 時計を見ると、あれから数分しか経っていない…。警察からホテルに電話したところ、彼の車は確かにエンジンのかかったままホテルの前にあると告げられた…。
霧…地表近くの空気中に水滴が浮遊した物。視界1km未満。それ以上は靄。地面に接していないと雲。山に登る人はガスとも言う。
世界一霧が出るのは、カナダ・セントジョーンズで1年の1/3は発生する。日本では釧路で、やはり年間に約100日。冬だけなら熊本・人吉。以前書いた北海道・摩周湖(筆者が不出世の呪いをかけられた)、広島・三次、愛媛・大洲も知られる。中国・蘇州、そして切り裂きジャックのロンドン!(ただ、スモッグの減少で現在はそうでもないらしい)
1963年。日本茨城県〈藤代バイパス〉。松戸市から柏市付近。銀行の支店長代理と次長の乗った車の目の前で、150m程先を走行していた黒塗りの〈トヨペット・ニュークラウン〉が、白いガス状のものに包まれたかと思うと5秒程で跡形もなく消失! 初代『SFマガジン』編集長・福島正実、オカルトライター佐藤有文らにより世に知られる事となった。
アメリカ・カンザス州カサグランデ山に発生する黒い霧は、包まれた物を不安に陥れるとか、別次元へ運び去るとか言われる。ジンバブエ・ニャンガニ山でも、分厚い雲が発生し、度々失踪が相次いでいる…。
『北欧神話』の世界創造の元となるユミルは、霜の巨人とも言われる。その血が海に、肉が大地に、頭が天となり、汗から霜の巨人が産まれた。近年ヒットした漫画『進撃の巨人』でも、モデルとされた。
妖怪では福島・田村のオンボノヤス。吐き出す霧で、人を惑わす。「オンボ」は「尾」の意味で、尻尾のある獣のような姿でよく描かれる。また、同地には霧を自在に操る大多鬼丸もいた。坂上田村麻呂に討伐された蝦夷とも言われる。埼玉川越の霧吹き井戸は、霧を噴き出して外敵の攻撃を防いだ。『川越の七不思議』の一つとされ、〈川越城〉は「雲隠れ城」とも呼ばれた。井戸は〈川越市博物館〉の敷地内に現存する。広島の船幽霊も、海面に霧を出して船を止めるという。
広島といえば、三原市の〈広島空港〉は濃霧による欠航が多いと耳にする。1993年まで空港は、広島市内のすぐ南の海沿いにあり、筆者はよく飛行機を観に行ったり、写真を撮りに行ったりした思い出がある。そういえば、かつて中国山地の小領主だった毛利元就とその妻を描いた、永井路子の小説の題名も『山霧』だった。
絵に描いたのは、1985年小松左京の『首都消失』のイメージ。2年後に映画化もされた。高さ2km直径50kmのそれは、地球外知的生命体により送り込まれた自動観測装置だった!
映画と言えば、ジョン・カーペンター監督の1980年のゴシック・ホラー『ザ・フォッグ』。1988年の『愛は霧の彼方に』は、マウンテンゴリラの保護に生涯を捧げた生物学者ダイアン・フォッシーを、シガニー・ウィーバーが演じた(しかし、この頃の邦題はやたらと『愛』を乱発してたな…)。そして霧といえば、同年のテオ・アンゲロプロス監督の『霧の中の風景』! あ、絵の右下にある緑の塊はマリモではなく、近年愛媛銘菓となった〈霧の森大福〉♡
切り裂き魔ゴリラも首都も霧の中風来松