74. 墓

墓に関する妖怪は、意外と多くはない。

勿論、火の玉は墓場に現れ、『今昔図画続百鬼』にも墓の火として描かれている。山寺の庫裏に棲み屍を喰う古庫裡婆。和歌山で墓に顔が浮き出るという鬼面墓。変わりどころでは、1827年江戸のいたるところで、墓石が何の痕跡もなくピカピカに磨かれるという怪異が度々あり、石塔磨きなる妖怪の仕業かと噂された。

そんなところで、夜に集まって運動会はしない。因みに、あの歌は1967年水木しげる大先生、御本人の作。『少年マガジン』の企画で作られ、当時は原作同様『墓場鬼太郎』が題名だった。

墓場ではなく、墓があるという妖怪ならいる。有名なのが、熊本県天草栖本の油すまし。この妖怪、話をしてたら油瓶を下げて現れたという話しかない謎の妖怪である。現地の方言で油を絞る事を、「油ずます」と言う。京極夏彦は、ツルベオトシサガリの類で油瓶が落ちてくるのではと指摘している。ほかにも、妖怪処、徳島県の山城町水無集落には、ヤマジチの墓がある。この妖怪は、山から来て大暴れし、村人5人と犬一匹が犠牲に。讃州の山伏が、焼いた石を食わせ退治したが、その山伏も毒気に当たり死んでしまったという。ヤマジチの住処からは、今も赤い水が流れている。神奈川県座間にも、一つ目小僧の墓があり、これはある墓守が1932年に、一つ目でつの二本の頭蓋骨を掘りだした事による。

描いたのはスコットランドアイラ島で見た、ケルト十字の墓。墓が見下ろす海には、アザラシの皮を被るセルキーなる妖怪がいて、皮をぬぐと美男美女の人間の姿なので、いろいろややこしい事が起こるらしい...。

墓のうらに廻る尾崎放哉